意識的に目を向けないと繋がれない社会でどう生きる?小野美由紀さん×今井紀明トークイベント

ガラガラと、少し重たい引き戸開けて、「ゆ」と書かれた暖簾をそっとくぐる。「あれ、前にも来たことがあったかな?」そんなどこか昔懐かしいような空気が張りつめていた心と体を、柔らかく、そっと包み込んでいく。

 

なんとなく、疲れていて自分の進みたい方向が見えなくなっていた時期。たまたま扉をたたいた古い銭湯の温かい記憶が、今でも私の心のにはじんわりと残っています。

 

あなたのこころの中には、どんな記憶が残っていますか?あなたにとって「銭湯」とは、どのような場所でしょうか?

 

今回はそんな、東京下町の築100年の銭湯シェアハウスを舞台に、社会に馴染めずにいる若者の共同生活を描いた小説『メゾン刻の湯』の著者・小野美由紀さんと、認定NPO法人D×P代表・今井紀明との「つながり」をテーマに行われた、トークイベントの一部をお届けいたします。

 

画像に含まれている可能性があるもの:Noriaki Imaiさん、スマイル、座ってる、屋外今井紀明(以下、今井)

過去に、銭湯(温泉)に助けられたひとり。温泉に50円で入ることが出来る大分県別府市に住んでいたことがあり、そこでD×P共同創業者の朴基浩(ぱくきほ)と出逢い、温泉で彼に話を聴いてもらいながら、精神的に少しずつ回復していく。最初は、温泉の入り方が分からず、年配の方から怒られたりというお茶目な一面も・・・。最初に桶をとってそれで身体を洗うというルールなど、年齢関係なく銭湯で出逢った人に教わりながら、仲良くなっていった思い出がある。

 
 
小野美由紀(以下、小野さん)
フリーライター当時、お金も人脈も仕事も何にもない中、家の近くの銭湯に通うお風呂無し生活を2年近く経験。 それまで、東京でマンション暮らしという近隣との関わりがない中で育ってきたため、そこではおばあちゃん、子連れのお母さんなど、自分が普段仕事などで接してこなかった人との出逢いがあった。銭湯は「社会が垣間見える無言のコミュニティーだな」と感じ、何もしないけど社会の中にいていいんだなという安心感を強く抱いた思い出がある。
 
 

社会にとって、役に立たない人間は死ぬべきだろうか。人間生きている限り、役に立たなくちゃだめか。 

小野さんにとっての初めての小説『メゾン刻の湯』を書こうと思ったきっかけは、2016年6月に、神奈川県相模原市でおきた相模原市障害者殺傷事件だったそうです。

 

小野さん:その犯人が言っていた「役に立たないから、殺してもいい」という言葉を聴いて、すごく胸に迫るものがあったんです。「社会の中で正常なシステムに組み込まれて生きることが出来ない人っていうのは生きる価値がないのか」っていうのを、自分に対して問いたくて小説を書いたんです。

 

小野さんご自身は、身内に障がいを持った人がいるわけではなく、介助の経験もないけれど、この出来事は今でも深く胸に残っていると語ります。

 

小説「メゾン刻の湯」の登場人物は、就活する気になれず、内定にないまま大学を卒業したマヒコ。大手の内定を蹴り、愛人生活を送る、ハーフの蝶子。誰にも言えない秘密を持つエンジニアのゴスピ。事故で片足を失った、義足で美容師の龍くん。ネットベンチャーに勤める、まっつん。刻の湯の持ち主の戸塚さんと、その孫のリョータ。刻の湯の経営を担いながらも、謎に包まれた青年、アキラさん。

 

社会や環境との間に障がいを持った人、セクシャルマイノリティーと呼ばれる人、ハーフの人、親を持たない人、そんな自分の存在を問うことが多いように感じる人と人が共に暮らしたらどうなるのかというのを知りたくて、小野さんはこの小説を書いたといいます。

 

 

個と個の理解があれば、共同体みたいな物が無くなっても、生きて行けるのではないか。

 

D×Pが目指すビジョンは「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」。日々学校現場でひとりひとりの高校生を見つめ、年代・肩書きもまばらなひとりひとりと共に、人と人とのつながりをつくっています。

 

今井は、現状の社会を「意識的に目を向けていかないと繋がれない社会」だと話し、そんなD×Pが目指していきたいこれからの理想の社会について、こう語ります。

今井: 目指してる社会を自分たちで創っていきたい。例えば、住む事業やシゴトを創ろうとしている。D×Pのコミュニティーの中で金銭のやり取りや、食料のやり取りが出来るような大きなムラみたいなものを夢想している。僕らがそれを創っていかなければならない世代なんだなと感じていて、それを創っていくための施策を常に考えている。

 

また、小野さんは、ご自身の理想の社会像に近いものを、この一冊を通して書くことが出来たと話します。

 

小野さん:自分と相手の関係を顧みながら、どうやって関係を築いていけばいいんだろうって悩みながら進んでいく。相手と自分の違いを認めるっていうのが、私はキーだと思う。肩を隣り合わせて時間をかけて汗水たらして作らないと、関係性や理解って進まない。

 

小説「メゾン刻の湯」の物語は、共同体維持の物語ではなく、共同体が無くなってしまった時に、そこに残るものについて書いたもの。「つながり」は、無理に創ろうとするものではなく、それぞれが繋がりたい時に繋がれたら良いと小野さんは話していました。

 

 

夢や希望が無くても生きていけるし、無い状態からある状態に移行した時、その人への支援がシームレスに行われる社会になって欲しい。

最後には、夢や希望を持つことの意義について語りました。

 

今井:やりたいことや、夢や目標があることは珍しいことだと思う。僕が関わっている8~9割の高校生は特に無いように思う。その中でも自分自身がこう在りたいとか、目指したい社会のビジョンとかがある子はいるけれど、別に僕はあってもなくてもどちらでも良いと思っている。無いんだったら興味のあることから始めてみれたり、あるんだったら一緒に実現させていこうよと思っている。

 

小野:夢や希望を持つ場所を持って労働してくれる人の方が資本社会的にはありがたい。だから、キラキラしたものに人は向かっていったりすると思う。けれど、それを人に押し付けるのは嫌だなと私は思う。夢や希望が無くても生きていけるし、ある人が、夢がない状態からある状態に移行した時、その人への支援がシームレスに行われる社会になって欲しい。

 

最後に小野さんは、夢がない状態にある時には生きるための支援が十分に受けられ、いざ夢を持った状態の時には、それを叶えるための支援が受けられたらという意味を込めて、これからの社会のあり方に対して、そんな風に語って下さいました。

 

この日、今井と小野さん、お2人のお話を聴きながら、感じたことがあります。

 

それは、自分とは違う価値観や生き方に出逢った時、頭ごなしに否定するのではなく、その人が選ぶ言葉や在り方の背景をひとつひとつ想像しながら、少しずつ少しずつ、その人と関わっていきたいということでした。

 

「違い」を排除するのではなく、知らないことに対してワクワクしながら向き合える人でありたい。そうすることで、目には見えないつながりは意図してつくるというよりも、いつの間にかそこに生まれてくるものなのかもしれない。おふたりの在り方や、このトークイベント会場の雰囲気からそう感じました。

 

そんな、つながりも、ユメも、希望も持ちたいと感じた時に持つことが出来るような「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」を目指し、D×P(ディーピー)は皆さんと共に歩んでいけたらと思います。

 

また今後も、ゲストをお迎えしてのイベントトークを開催致します。レポートだけでは感じることのできないD×Pの雰囲気や、オフレコのお話も聞くことが出来るかもしれません。ぜひ、遊びに来てください。

 

あなたにお会いできるのを、心から楽しみにしています。

 

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Written by塩谷友香・写真/磯みずほ

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