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相談を「待つ」のではなく「届ける」。  若者を支援する7団体と “デジタルアウトリーチ” の可能性を探る

生活が困窮してしまった、予期せぬ妊娠で誰も頼れない、配偶者から暴力を受けている……などなど、困難に直面した時のために、行政にはさまざまな相談窓口があります。

しかし、電車賃がない、時間がとれない、精神疾患や持病があって動くこともままならない、といった理由で、その窓口に辿り着くことすら難しい方もいます。

そこで求められるのが「アウトリーチ」。窓口で相談に来るのを待ち構えるのではなく、困っているひとの近くに行き、その人にとって必要な支援とのラストワンマイルをつなぐ福祉の取り組みです。

中でも、近年ではITを駆使した「デジタルアウトリーチ」に注目が集まっています。これまでD×Pでは、助けを必要とする若者へ支援などの必要な情報を届けるべく、Twitterや音声アプリ「Yay!」との連携による発信、繁華街でのデジタルサイネージ広告、LINE、Instagram広告など、発信の幅を広げてきました

しかし新たな利用者とのつながりが生まれた一方、「まだまだ困っている若者にリーチしきれていない」という課題を抱えています。複数の問題を抱えた若者を支えるためには、多くの団体と連携する必要性を感じていました。

デジタルアウトリーチを活性化させ、ますます多くの支援団体にもノウハウを広げ協働したい。そんな思いから緊急支援事業を実施しました。

D×Pは今回、READYFOR株式会社と共同し、休眠預金活用事業の資金分配団体として、7つの団体に資金的支援と非資金的支援(伴走支援)を提供。2月21日に開かれた報告会では、それぞれの団体とともに成果を振り返り、今後の展望を語り合いました。

休眠預金を活用した総事業費 約2.8億円のプロジェクト。実施期間は2023年8月~2024年2月末まで。

「検索ワード」で要支援者とつながる

現在、日本の支援の現場では、困難を抱えている当事者が自分の課題を自覚し、自ら窓口に足を運ぶことから始まることが多い現状にあります。これは、申請しないとサポートが受けられない「申請主義」だと批判されることもあります。

特に、スマホ利用が当たり前の若年世代の中には行政やNPOが提供しているサービスを「そもそも知らない」という人も少なくありません。行政窓口が開いているのは平日9〜17時なので、仕事や学業の合間を縫って時間を調整するのも手間がかかります。

こうした点から、予防型の支援としてデジタルアウトリーチの重要性がますます高まっているのです。

今回のプログラムにアドバイザーとしてノウハウの提供を行ったNPO法人OVAさんは、自殺念慮への対策として検索連動広告などを活用したデジタルアウトリーチを10年に渡って行なってきました。代表理事の伊藤次郎さんは、たった一人でこの手法を実践した当初を振り返ります。

「自殺の対策として一体何をすればいいのだろうと考えましたが、顔に『死にたい』と書いてあるわけじゃない。じゃあ、スマホで『死にたい』と検索している人に広告が出せないかと考えたのがきっかけでした」

国も “デジタルアウトリーチ” の重要性を認識

NPO法人OVA 代表理事 伊藤次郎さん

伊藤さんが考えたのは、「死にたい」など自殺に関連するキーワードで検索すると、相談を促す広告が表示され、インターネットの相談窓口へと誘導する方法。

2014年にNPO法人を設立すると、こうしたデジタルマーケティングを用いた支援の効果検証を積み重ね、研究者と組んで数々の論文を発表してきました。と同時に、自殺関連用語の検索連動広告に関するガイドラインの策定や、政策提言にも力を入れてきました。

こうした活動が身を結び、2017年には厚生労働省が発表する「自殺総合対策大綱」にも自宅への訪問や街頭での声がけ活動だけではなく、ICTも活用した若者へのアウトリーチ策を強化する」という文言が初めて記載されたのです。

現在ではほぼ全ての検索エンジン、主要SNSで自殺関連用語に対応した取り組みがなされているほど、この手法は大きな広がりを見せています。

Xの事例

デジタル広告の運用経験はほぼゼロ。7つの団体の成果とは?

このように、自殺対策の領域でOVAさんが大きな成果を残しているデジタルアウトリーチ。困難を抱えている人たちを支援する多くの団体にも、この知見が生きる余地は大いにあると言えます。

今回のプログラムに参加した7つの団体は、それぞれ、ターゲットとする層や特色もさまざま。共通しているのは、これまでは居場所事業や対面相談など直接の関わり合いが多く、デジタル広告の運用経験がほとんどないということでした。

今回のプログラムの助成採択団体一覧

アドバイザーであるOVAさんにも助けを借りながら、各団体がリーチしたい相談者のペルソナを想定してターゲティングを行い、広告運用を実施したところ、LINE相談などの登録者数が数千単位で増えたという団体も。そして、7団体の合計では約12,765件の新規相談者の増加につながるという結果になりました。

D×Pの代表・今井紀明は各団体の報告を振り返りました。
「D×Pがユキサキチャットを4年間運用してきて、今、相談者さんが約1万3,000人なので、それを考えるとこの半年に新しく約12,765件とつながることができたというのは、本当に大きな成果だと思います」

D×P代表 今井紀明

インサイトから政策提言や今後の団体運営につなげる

このプログラムを通じて、各団体の振り返りから得られた今後の課題は大きく三つ。

一つは、広告費を今後どうやって継続的に確保していくか。

行政や国の補助金等で賄えるかが大きなポイントとなり、ひいては、どのように政策提言を行って、制度や仕組みを作っていくかということにもつながっていきます。

二つ目は、今回の事業から得られたデータから可能な限りインサイトを収集し、今後の団体運営に生かしていかなければならないということ。
伊藤さんは「政策提言では、目に見える成果があるのだということをいかに数値を使って伝えていけるかが鍵になります」と強調しました。デジタル広告のメリットは、運用の実績が全て数値として残ること。インプレッション、リーチ数、クリック数、CVRなどを細かく提示し、従来、行政が行なってきた効果測定が曖昧なポスターでの訴求方法などと「比較」して提言することができるのです。

三つ目は、デジタルアウトリーチ施策によって急増する相談者に対応するため、組織を超えた繋がりをどう構築するかということです。

D×Pはかねてより「一社では支援しない」というポリシーを持ち、複数の支援団体とともに相談者を長期にわたって支えることを大切にしてきました。今回の振り返りでも、こうした横のつながりの重要性を参加団体とともに再確認することができました。「自分たちの団体では対応できないケースを、他団体にどうスムーズにつなぐか」など、連携をより有機的に機能させていくことが求められます。

対人支援もやはり大事。デジタル広告とどう両輪で運用するか

左から、市川 衛さん(READYFOR株式会社基金開発・公共政策責任者 )、今井(D×P)、伊藤次郎さん(NPO法人OVA)、芥田 真理子さん(日本民間公益活動連携機構 企画広報部 部長)

「デジタルアウトリーチは万能ではありません」と、最後に伊藤さんは付け加えました。

「これはアウトリーチの手法の一つに過ぎません。指定難病患者のような母数が少ないターゲティングや、薬物依存といった対象者の特性によっては成果が得られないことがあるので、見極めも必要になってきます。NPO・支援団体が広告運用や分析をするのが人員的に難しい場合もあるため、広告運用の実務の部分は広告代理店さんなどと協働し、リーチ後の対人支援に集中するのも一つの方法です。」

「政策提言にあたっては、定量的な評価だけでなく、ナラティブも大事です。例えば、相談者の方が予期せぬ妊娠をきっかけに精神疾患を発症し、自殺に追い込まれた……といった個別具体の『物語』も伝えていく。相談件数など数だけでは伝わらないことの方が多いので、どういった状況の市民に出会って支援をして、変化したのか質の部分を伝えていくことは重要です

助成団体の中からは「(デジタル広告は結果が見えやすく)自分たちの活動を求めている人たちはインスタグラムのユーザーに多いのではないか」「つながれていない人たちがこれだけいたんだ、と気づいた」といった声もあがりました。

今回の緊急支援事業での各団体の実践は、デジタルアウトリーチを社会でますます広めていくための大きな一歩となりました。D×Pでも今後、各団体と連携し合い、ますます支援の網目を細かく、広く投げかけられるよう努力を続けていきます。

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