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親にお金を取られても、差別されても「自分が悪い」と思っていた……トランスジェンダー男性の和也さん(仮名)が過ごした10代・20代

いまだに同性婚(婚姻の平等)が実現されない日本。2023年6月にLGBT理解増進法が制定・施行されましたが、これが差別禁止法ではなく、差別する側に配慮しているとして、当事者や支援団体からは強い批判が寄せられていました。政治家によるLGBTQ+への差別的な発言も枚挙にいとまがありません。

こうした状況の中で、D×Pには子どもたちやユース世代から不安の声も寄せられています。「自分の将来に不安を感じますか?」という過去のアンケートで「はい」と答えた人にその原因を聞いてみると、セクシュアリティにまつわるものも見受けられました。

貧困(フリーターだが、日雇い派遣は肉体労働が多くはたらけ無い) 結婚できない(連れ合いが同性のため) など
18歳・「感じる」と回答
(前略)同性婚が日本ではできないから、パートナー(今はいないが)がいて、一緒に暮らしてたら、急な入院やパートナーが死んだときに一緒に立ち会えない。それが不安。私は生物学的に女性で、パンセクシャル。男性とも付き合えるが、男性と付き合いたくないから、女性と付き合いと思ってる。でも、同性婚ができないことが同性パートナーを作る上で障害になっている(後略)
20歳・「感じる」と回答

メディアやSNSを通じてLGBTQ+当事者を見かける機会は以前に比べて増えたかもしれません。しかし、それは当事者の中の一握りであるという側面があります。D×Pに相談を寄せる若者たちの中には、日々のくらしに必死で、その身に起きている不条理や、困難に関して、声を上げる余裕すらないという人も多いのです。

そんな当事者の声も、もっと届けるべきではないだろうか。D×Pタイムズ編集部は、過去ユキサキチャットを利用してくれていたトランスジェンダー当事者の和也さんに、そのような意図を伝えたうえでインタビューを申し込みました。

家にお金を入れるため高校生の頃からバイト

──和也さんは2年ほどユキサキチャットを利用してくださっていましたね。現在はどんな状況でいらっしゃいますか?

2、3年前から生活保護を受給していて、いまは実家から離れてひとり暮らしをしています。

──改めて、和也さんがD×Pの支援につながった時の経緯を教えていただけますか?

20歳を超えていたくらいの時だったと思いますが、ネットで知り合った友だちにD×Pさんのことを教えてもらいました。当時、実家で暮らしていたのですが親とうまくいっていなくて、頼れなかったんです。

──頼れない状況というのは……

父親が病気していて、働けていなかったんです。自分がアルバイトをしても、「家にお金を入れなさい」と言われる。高校生の頃からアルバイトをしていたんですが、手元に残るお金は少なかったです。

高校を卒業した後は、いったん就職していたのですが、就職先でメンタルをやってしまい、3年くらいで辞めて、そこから職を転々とし、最終的には実家に戻ってきて地元でアルバイトをしていました。その時に父が病気になりました。
母は外国人なのですが、最低賃金よりももっと安いような「グレー」な状況で働いていて、ろくなお金にならないんです。あと、稼いでも遊びにいっちゃうような人で。

D×Pで支援を受けていることは、家族に知られないようにして、こっそりいただいたお金を使ってどうにか生活しました。お金を受け取っていることがわかると親に取られてしまうので……

D×Pさんは、LGBTだとか関係なく接してくれて、すぐに手を差し伸べてくれたのが本当に助かりました。「今日ご飯食べた?」とか、いろいろ心配してくれるのがすごく嬉しかった。

和也さんと相談員とのユキサキチャットでのやりとり。

ランドセルの色や、制服に違和感を持ち続けた

──和也さんは、いつ自分がトランスジェンダーであると自覚したのでしょうか?

自分はなんか周りとは違うな、と思うようになったのは、小学校に入る前くらいの頃だったと思います。黒いランドセルを買ってもらえると思っていたら、実際に親が買ってくれたのは赤で、「あれ?」みたいな。

親には「黒がいい」と言ったのですが、「いや、女の子は赤だから」みたいな感じで言いくるめられてしまって。

イメージ写真

──親にはカミングアウトされているのですか?

高校生の時に、制服でスカートを履くのが耐えられなくなったんです。その時に、自分はこう(トランスジェンダー)で、ホルモン注射とかを使って治療していきたいんだけど……という話をしました。そしたら、父は「それは高校卒業して就職もして、自分で働けるようになってからやりなさい」と言っていました。

制服のことは、親が「学校に相談してみなさい」と言うので、担任の先生に言ったんです。そしたら当時の担任が『3年B組金八先生』を観ていて、「お前もそうなのか」となって(※『3年B組金八先生』第6シリーズに上戸彩演じる性同一性障害の生徒が登場する)。その先生が、自分よりも偉い先生に話をしてくれて、最後の一年だけでしたがズボンの制服で過ごすことができました。

でも、やっぱり最初の頃はジロジロ見られたり、「男のコスプレをしている」と言われたり、ということがありました。学校には、少ないけど、自分の性自認のことを含めて話ができる友達がいました。いまでも仲良くしてくれている子がひとりいます。

父は(トランスジェンダーについて)割と理解している感じがしますが、母親がまだちょっとわかってないみたい。(和也さんに弟がいることから)まだ「お姉ちゃん」と呼んできます。

職場で直面した、トランスジェンダーとしての困難

──一番最初に就職した会社でメンタルを病んでしまったとおっしゃっていましたが、どんなところが辛かったですか? 

父よりも上の世代の人が多かった職場というのもあって職場内でのコミュニケーションがなかなかうまくいかなかったんです。「〇〇先輩とならうまくいくんじゃないのか?」と次から次へと部署異動をさせられましたが、ダメでしたね。

自分はトランスジェンダーであることを隠して入社してしまったので、周りにカミングアウトできる人もいなくて、「隠さなきゃ、隠さなきゃ」と思っていたことも影響していたと思います。

辛かったのは、更衣室とトイレの問題ですね。女子更衣室をあてがわれるのですが、そこで他の社員とばったり会ったりすると気まずかったです。自分の居心地の悪さが第一にあって、その次に「自分なんかがこんな場所を使ってしまってごめんなさい」という相手への申し訳なさがありました。

──「自分なんかが」って、聞いていてとても悲しくなってしまいます……大前提として、和也さんがマジョリティのために常に配慮をしなければならない、という状況は本当におかしいと思います。和也さんは、LGBTQ+を取り巻く現在の日本の状況をどう思いますか?

一番は、同性婚の問題だと思います。早くできるようになってほしい。あと、トランスジェンダーとしては、戸籍上の性別を変えるのに手術要件(※)があります。手術をしなくても戸籍上の性別を変えられるようになったらいいと思います。もしくは、手術を保険適用内でできるようにするとか。

(※)「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」では、次の4つの項目をもとに家庭裁判所が性別変更を判断する。①十八歳以上であること。②現に婚姻をしていないこと。③現に未成年の子がいないこと。④生殖腺せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。⑤その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。④⑤は一般的に「手術要件」と呼ばれ、生殖腺(卵巣/精巣)を手術で摘出することが求められることから経済的・身体的にも高いハードルとなっている。

自分から発信できていないだけで、困っている人は “絶対に” いる

──性自認のことで悩んでいる時に、なかなか実家が安心できる状況ではなかったというのは、本当に辛かったのではないでしょうか?

いまも親に対してネガティブな気持ちは持ち続けていて、実家とはほとんど疎遠になっています。というのも、父親が自分の母親(祖母)と暮らしていた時に、DVをしていたというのを聞いて、離れた方がいいなと思いました。居場所を知られたら追いかけてきて、またお金ちょうだい、となるので、いまは東京にいるということまでしか知らせてないです。

──高校を卒業するまでも、ずっと困っていたと思うのですが、誰かに相談したり、逆に大人からアドバイスを受けたりしたことはありますか?

家の事情は、一部の友達にだけ言っていました。いま家がこんな状態で、とか、お金を取られてて、とか。でも、誰かに相談することができるようになったのは本当にここ1、2年のことだと思います。大人と言っても、同世代の友達、という感じですけれど。役所に行ったほうがいいよ、とか、勧められて(そういう手段があるのだと)気づく、という感じですね。

もっと早いうちに気づいていれば、というか、もうちょっと早くから手を差し伸べてくれる何かがあったらよかったな、と思います。でも、実際のところ、中高生が自分から大人を頼って話しかけにいくのは難しいと感じます。

──「おかしい」と声をあげるって、簡単ではないですよね。

「自分が悪い」って捉えちゃうんですよね。社会とか、周りが悪いっていうふうに思うのではなくて、これは自分のせいだから、自分がトランスジェンダーだから、とネガティブに捉えちゃうことが多かったと思います。学生時代と比べたら、いまは、(自分の苦しさは)周りの環境のせいもあったと思えてきた気がします。

──かつての和也さんのように、「自分のせい」と抱え込む人に、あるいはその周囲の人に、何か伝えたいことはありますか。

昔の自分のように、「自分のせい」って思っている人は多いと思います。でも、苦しいのは環境のせいだったりとか、(自分以外の)いろんな要因のせいなんだよって、言ってあげたいですかね。

周りの人には…自分から発信できていない、というだけで、困っている人は絶対にいる。それが経済的だったり、ジェンダーのことだったり、いろいろ理由はあるけど、絶対に困っている人っているので、もうちょっと広い目で見るというか、困っている人がいたら助けてあげてほしいなと思います。


そもそも高卒就職の段階でLGBTQの方へのフレンドリー企業を探すのは困難です。高校卒業の時は、民間の就職サービスなどの活用は主流ではないため、大学生が就職活動時に利用する就職サービスを使えるわけではありません。また、ジョブレインボーのようなダイバーシティ就活・転職サイトも活用できないです。

特にトランスジェンダーの方にとって、現状の高卒就職の仕組みの中でカミングアウトして就職をすることも力がいりますし、企業側に働きかけていくことは極めて困難だと思っています。これまで私が出会ったトランスジェンダーの高校生は、困窮家庭で大学に行けず就職を目指していましたが、結局はアルバイトで生活するなどから始めるしかないことがありました。高卒就職の段階でも、トランスジェンダーおよび性的マイノリティの方が就職先を考えられる選択肢を掲示できるような社会の仕組みをつくっていくことは急務だと思います。
今井紀明

執筆:清藤千秋(株式会社湯気)/編集:熊井かおり

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