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「親に奨学金を使い込まれる」「夏にエアコンを我慢」チャット相談員が目の当たりにしている若者のリアル

物価上昇が家計を逼迫するいま。困窮し、誰にもSOSを出せない、年を越せるか不安に感じる若者をサポートするために、10月12日からクラウドファンディングがスタートしました。

D×PのLINE相談サービス「ユキサキチャット」にも日々、不登校や進路の不安、親からの虐待、ネグレクト、また、公共料金や携帯電話の料金を滞納してしまっている……などなど、さまざまな相談が寄せられています。

この記事では、D×Pタイムズ編集部が、日々”声”を受け止めているユキサキチャット相談員の話を聞きました。
どんな相談が寄せられるのか?安心して話してもらえるようにどんな心がけをしているのか? 相談員の言葉を通じて、若者たちが直面する困難のリアルが見えてきます。

この記事に出てくるユキサキチャットの相談員
Oさん:1年ほど相談員を経験し、現在はマネージャーとして業務効率化や人事、育成などを担う。D×P参画前は学習塾で塾長・販促・企画業に従事。求人広告の営業職の経験も。

Nさん:相談員。以前は行政の職員として、生活保護や児童相談所など主に福祉部門で働いてきた。

Mさん:相談員。寄せられる相談内容を確認し、相談員の専門領域に合わせて振り分ける業務も。臨床心理士、精神保健福祉士として以前は精神科に勤務。

困窮している大学生が想像以上に多いという驚き

──現在、ユキサキチャットは登録者だけでも1万人を超えていますね。実際の相談につながる人はそこから少なくなるかもしれませんが、皆さんはどれくらいのケースを担当されているんですか?

M:相談員ひとりあたり、60名〜100名ほどを担当しています。そのなかでも、喫緊で集中的なやり取りが発生する方もいれば、「最近どう?」と見守りで声をかけたりする方もいるので、頻度にばらつきはあります。

相談に関わるスタッフは総勢20名ほどです。直接相談者さんとコミュニケーションを取る相談員から、食糧支援の作業スタッフ、事務スタッフ、さらには、より円滑な支援を可能にするための業務改善のスタッフやエンジニアまで、多様な職種が協力し合っています。

O:D×Pはスタッフのポリシーとして「否定せず関わる」を大切にしていますが、ユキサキチャットにおいても、相談者さんに「大切にされた」「ちゃんと話を聞いてもらった」という経験を得てもらうことが大事です。たくさんの相談者さんと向き合っていく上では、常に業務効率化や一部業務の自動化も求められてきますが、効率化することで失われていくことはないか、といつも気にかけています。

──いま、若者を取り巻く状況について、相談をするまで気づかなかったこと、相談をして初めて知ったことはありますか?

N:お金に困っている大学生がこんなにもいるのか、と最初は驚きました。私はもともと行政職員として児童相談所で働いていましたが、そこは18歳を超えると支援の対象外になりますし、大学生は原則生活保護を受給することができません。でも、親御さんに頼れない状況だと、自分で学費も生活費もやりとりしなければならず、借金が膨らんでしまっているというケースがあります。

大学まで行けるということは、家庭環境も整ってるし、本人の能力もあるし、大丈夫でしょ、みたいな社会の認識が制度にも表れているように思います。

D×Pの現金給付を希望する476名の所属 2021年12月の結果

親が子どもの面倒を見ないということを社会が想定していない

M:私は前職が精神科だったのですが、18歳未満の方の場合、親が病院に連れてきて初めて、適切な治療やリハビリなどの支援が可能になります。ユキサキチャットに相談を寄せてくださる方のなかにも精神的に不調をきたしている方がいますが、親御さんの協力が得られにくい家庭だと、医療につながる以前の状況下で苦しんでいるということがわかりました。

一概には言えませんが、その精神的不調の背景には虐待やネグレクトなど、成長過程でのトラウマが強く影響していることも多いです。親が子どもの面倒を見ないということを社会が想定していないんですね。だから、親を介さず、子どもだけでつながれる「ユキサキチャット」のような相談サービスって本当に大切だと思ったんです。

──「ユキサキチャット」が、国や行政の支援の対象からこぼれ落ちてしまっている人たちにきちんとリーチすることは重要ですよね。

O:あと、困難のバリエーションがとてもたくさんあると感じています。親からの虐待の経験と、精神疾患を抱えていて働くことができず、経済的にどんどん困窮してしまい家を失う直前までいってしまった、という人もたくさん見てきました。一つの問題だけじゃなくて、いろんな問題が複合的に絡み合っているんですね。

自分で窓口に行かなければ支援制度につながることができないわけですが、それが、困難のまったただなかにいる人たちはやっぱり難しい……

アビームコンサルティング株式会社による分析結果より引用

N:行政は、たくさんの問い合わせや、困難な状況で長期間関わりが必要な方の対応をすることがあり、目の前の方への対応で精一杯なこともあると思います。また、世代やその人が抱える状況によって、必要な情報やサービスが届いていないことや、行政につながる手法が来所や電話などに限定されていることにより、サポートが得られないままの人がいることもあると感じます。

複合的な問題への対応に関して、行政は縦割りなので、相談内容ごとに対応する課も違います。また、内部でもそれぞれの部署での情報や取り組みを共有するのが難しく、もどかしさを感じることは多々ありましたね。

O:そうなってくると、やっぱりオンラインで自分のことを気軽に相談できるサービスは大切なのかな、と思います。家庭の貧しさって、なかなか身近な人には相談できなかったりします。友だちでも家族でもない相談員なら気軽に話せることってあるのかもしれないと思います。実際、「身近な人にはこんなこと話せませんでした」という声をけっこう聞くんです。

みんな、ほんとうにお金に困っています。公共料金や携帯代、奨学金、借金の滞納が多い。冬にガスがつかない、夏にエアコンを我慢しているという人もけっこういます。借金は、消費者金融もありますが、いま、スマホ決済で「後払い」とかちょっと耳障りのいいものが増えてますよね。分割手数料や金利を知らないで使っていたりするのですが、誰も教えてくれないので、本人だけのせいではないと思います。

また、金銭管理ができていても、親に搾取されていたりとか、奨学金を使い込まれて、その結果困窮してしまうというケースもあります。

いままで否定され続けてきた子どもたちと向き合うために

──相談に乗っていく上で、気をつけていることはありますか?

M:やっぱり「否定せず関わる」が一番大事かと思います。

相談を寄せてくれる方は、いままで、家庭や学校、公的機関の窓口などで何かと否定されてきた方が本当に多い。皆さんのお話を聞いていると、親や先生には「社会的にこうあるべき」という強い規範が存在しているような気がして、良かれと思ってやっていることが子どもを追い詰めているケースが多いと感じます。長時間労働や経済状況の悪化などの社会的背景もあり、大人の方も全体的に余裕がなくなっているのかもしれません。

いまの10代が日々触れる情報や、さまざまなコンテンツによって培われる価値観と、親御さんの世代に決定的にズレがある。子どもが危険な行動をとろうとしていた場合など、ときには大人として止めなければならないこともありますが、その背景に「どんな思いがあるのか」は否定せずに受け止めなければならない。私も親御さんの世代なので、自戒を込めてそう思います。

D×Pが若者と関わる時に大切にしている姿勢です

N:あと気をつけているのは、「ユキサキチャット」のその先につなげていく、という意識を持つことでしょうか。25歳という年齢制限もあるので、「ユキサキチャット」とのつながりが切れてしまったらまた独り、ということにならないように、と思っています。

Mさんが言っていたように、ユキサキチャットで「話を聞いてもらえた」ということを成功体験にしてもらって、「ここに相談してもいいかも/この人に話してみようかな」と、つながりをつくるきっかけや、一歩になれたらと思います。

以前、相談を受けた方の状況から、ユキサキチャットだけではなく、直接サポートを得られる場所へつながることが必要と思いました。でも、ご本人は学校や役所に相談するハードルがものすごく高いと。
なので、「私たちは(あなたの置かれている)こういう点が心配だと思っていて…。ユキサキでできることは一緒に考えてやっていきたいけど、ユキサキ以外の人の力も借りながら一緒に考えていきたい。」と伝えた上で、どんな場所だったら相談できそうか?とご本人と一緒に考えました。それが負担や過剰なアドバイスにならないよう気をつけながら、でも、背中が押せるような声掛けができればいいな、と思っています。

ユキサキチャットはLINEでつながり情報提供や次の一歩を考えていきます

「自分のまわりにはそういう若者はいない」で終わらせずに知ってほしい

──この記事を読む「大人」の皆さんに、伝えたいことはありますか? 子ども、若年層のために、どんなサポートができるでしょうか?

N:私自身もそうなんですけど、人間はどうしても自分の見える範囲で自分の経験したことが「当たり前」になってしまいます。それをいかに広げていくかが求められているんじゃないでしょうか。この記事を読んだ方は「自分のまわりにはそういう若者はいない」と思うこともあるかもしれません。でも、実際に社会には存在している。それを知って、ぜひアンテナを立てていただきたいと思っています。

M:いまNさんが言ってくれたことにもつながるんですけど、「貧困」って、ボロい家に住んで、ボロい服を着て……っていう昔のイメージがまだ強いと思うんです。でも、いまはけっこう安い値段で身なりを整えられるので、実はスマホの料金が払えていないとか、ずっとモヤシばっかり食べてるとか、そういう「外からは見えにくい貧困」が多いと感じます。

虐待に関しても、身体的なもの以外に、親御さんが精神的に不安定だとか、ネグレクトもあります。ヤングケアラーもいます。いまの制度は世帯ベースの支援が主流なので、子どもが直接支援を受けられないケースも多い。目に見える姿と実態のギャップがある方もいるんだ、ということを知ってほしいです。

O:私自身、精神的に不安定な親のもと機能不全な家庭で育ったんですが、当時たまたまオンラインゲームで知り合った大人の人に話を聞いてもらえたことが心の支えになっていました。
振り返ると、あのとき社会にこういう支援制度があったらよかったな、と思うことがあります。現在も、3歳の子どもを育てながら「保育園入れない」「教育費めっちゃかかる」など、社会のなかでいろいろと気づくことがあるのですが、そこに不平を言うだけでなく、実際に変えていく側になりたい、という思いがあるんです。

この記事を読まれた方に伝えたいのは、実際に何か行動をしないまでも、まずは知ることが第一歩だということ。誰か知っている人に情報を共有するだけでもすごいことだと思います。

この社会の仕組みを変えていくための大前提として、うまく言えないですが、「みんなに仲間になってほしい」っていう思いはすごくありますね。

インタビュー・執筆:清藤千秋(株式会社湯気)/編集:熊井かおり

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