D×Pタイムズ
D×Pと社会を『かけ合わせる』ニュース
D×P×ユキサキライター

どこかの見知らぬあなたに、おせっかいを焼きたい。36歳、私がそう思うようになった理由

(執筆:南 麻理江 / 株式会社湯気)

子を持ったことのない私は、ずいぶんと長い間、「子どもたち」という存在に、どんな声かけをしたらいいのかわからなかった。

戸惑っていた、といった方が近いかもしれない。

しかしながら、いまではそうした戸惑いや遠慮を脇において、この社会に暮らす子どもたちの生活に、僅かばかりでも思いを馳せ、小さくても何かしたいと考えるようになった。

1年ほど前からD×Pタイムズの執筆・編集の仕事に関わり、生きづらさや困りごとを抱えるさまざまな若者の話を聞かせてもらっているが、インタビューが終わるたびに、「どうか、みんな幸せでいてほしい」「自分の人生を自分で選べる状況にいて欲しい……」と切に祈っている自分がいる。

あるとき、ふと、こう思ったことがある。

私は、いつから、“見知らぬ”若者や子どもたちの幸せを、こうまで願えるようになったのだろうか。あんなに腰が引けていたはずなのに……。

思えば、変化は随分なだらかに数年の時をかけて起こった。それは、非常に個人的な物語であり、社会的な物語でもあるかもしれない。

三人姉妹との出会いが、思い込みを溶かす

人生最大の幸運といっていい気がしているが、私はここ数年、「スープの冷めない距離+ちょこっと」くらいで、姪たちの成長を見守っている。

彼女たちは夫の妹夫妻の娘で、9歳、7歳、3歳の三姉妹。子どものいない私にとって、最も身近な子どもたちだ。

正直いって、はじめの頃は、幼い姪とどう接すればいいかわからなかった。言葉をかけるにも、その家、その人なりの方針があるだろうし、親でもない大人にあーだこーだ言われるのは子どもにとってストレスもあるだろう。

何より「子育てをしたことのない私が何かを言うべきではないだろう」と思い込んでいたのだ。

子育て世帯は、いま、本当に大変だと聞く。ベビーカーをもってバスに乗ったら邪魔だと怒鳴られた母親がいるとか、子どもがよく熱を出すので結局仕事をやめざるを得なかったとか(これまた女性が圧倒的に多い)、そうした話を見聞きするにつけ、「この負担を自分は背負っていない」「社会全体の不備が子育て世帯にぎゅっと押し寄せていて、私はその外で、ただ指をくわえて見ていることしかできないと、後ろめたさを感じずにはいられなかったのだ。

しかしながら、子どものパワーというのは、そんな大人の思慮や分別を軽々と超えてくるからすごい。

「ねぇ、まりえ、遊んで!!」

「ねぇ、何でまりえってお仕事ばっかしてるの?」

「何でお仕事のときは名字が違うの?」………

容赦ない質問攻めや抱っこ要請を受け止めていたら、不思議といつのまにか、後ろめたさも、遠慮もモヤモヤも、溶けてどこかへ流れていってしまっていた。もちろん、妹夫妻の大らかな気構えがあってこそのこと。

ああ、自分で産み育てていなくても、子どもと関わっていいし、子どもを愛していいのだと、私は思うようになった。

真ん中の姪と3番目の姪の七五三。一番上の姪まで晴れ着に。手を引くのは夫です。

姪の一家と接して驚いたのは、子の無邪気さだけではない。ニュースで見聞きするだけだった子育て世帯の苦労は、実際ハンパなかった。男性育休、保活、予防接種に受験に習い事、子どもが学校で友だちとうまくいかない……毎日がハプニングの連続だし、金銭面や体力面での苦労も尽きることがない。

こりゃ、子育て真っ最中の人やまだ幼い子どもたちに「助けて欲しいなら声をあげてね」なんて、言えるはずない。「必要であればいつでもヘルプします」というスタンスでいた自分を悔いた。もっとこちら側から手を伸ばすべきだったのだと。

気付けば私は、おせっかいな叔母さんになっていた。

おせっかいを焼きたい。でも焼く場所がない

困っている子どもがいたら、おせっかいを焼ける大人でありたいーー。

姪とのふれあいを通じて子どもたち全般に対して、親しみを覚えるようになった私は、いつしかそんなふうに思うようになった。

Instagramにアップされる友だちの子の写真に、前より愛着を感じながら「いいね」するようになったし、道ゆく小中学生が「視界に入る」ようになっていた。

私の生活も十分な余裕があるわけでは全くなく、日々ギリギリなのは否めないが、動ける部分は動いてみたい…。

ライターの武田砂鉄さんが『父ではありませんがー第三者として考える』という本の中で、子育てにおいては、親「である」立場からの語りがもっぱらだが、親「ではない」立場からの語りもまた、子育てをめぐる社会課題の解決において重要ではないか、と投げかけていたが、それには何度も頷き、自分が抱いた気持ちに対する推進力をもらったような気がした。

武田砂鉄『父ではありませんが 第三者として考える』(集英社) 
同じ「子どものいない人」でも男性に比べて女性の方が「展望を語らされる」圧を大きく背負わされていることなどジェンダー不平等への鋭い指摘があり、本当に勉強になった。

ところが………

それらしくいいことを語ってきたが、「おせっかいを焼きたい」と思うようになった私が早々に直面した問題があった。

それは、実際におせっかいを焼く場所というのが、意外に少ないということ。

友だちや同僚の子どもにグイグイいくのも気が引けるし、ボランティア活動をするには時間的にも余裕がなさすぎる。

子育て中の人ならば、子どもつながりのコミュニティがあるのかもしれないけど、私の生活動線に、子どもとふれあう場所はほぼ皆無だ。

考えてみれば、おせっかいを焼いたり焼かれたりする場所というものが、この社会のなかでどんどん減ってしまっている側面もあるのではないか。

懐古主義的になりたくはないが、学校が嫌でサボっていたら「お茶でも飲んでいく?」と声をかけてくれた商店街の喫茶店のマスターみたいな存在は、もはや絶滅危惧種になってはいないだろうか。

おせっかいを焼きたいのに、焼けない………

「お金」でおせっかいを焼くという選択肢

そのじれったさを吐き出すような気持ちで、私は子どもの支援につながる寄付をはじめた。いま、1年近くになる。

まずはお金で解決、というのは文字通り“現金”な発想かもしれないが、とにかく小さな一歩を踏み出すのに、これほど簡単なものはない。本当にまだまだお小遣い程度の金額でしかなく、自己満足といえばそれまでだが、些細でもいいから、何かおせっかいを焼きたいと思ってしまったのだ。

さらに、寄付をはじめて思うのは、小さくても行動すれば視界は広がるということだ。

ここまで読んでくださった方のなかには、「あなたは、可愛らしい姪っ子がたまたま近くにいたからラッキーだったよね」と思う方もいるかもしれない。

本当にその通りで、彼女たちとのふれあいがなければ、もしかしたらいまも、近所の子どもたちが「視界に入らない」ままの大人だったかもしれない。

けれど同時に、本当にそうだろうか?とも思う。「子どもが視界に入ってくる」スイッチは、血縁や地縁、その他にもいろいろありえるだろう。寄付もその一つになりうる。自分から縁をつくりにいくのだ。

D×Pでは12月22日まで、生活に困窮する若者を支援するための寄付を募るクラウドファンディングを実施している(私は運営に直接携わってはいませんが…)。

物価が上がり続けた2023年。親からの虐待や家族の借金、介護などさまざまな理由で経済的に困窮し、年末年始を無事に過ごせるか不安に思う若者のために、すでに800人近くの大人が参加している。

過去に実施したアンケートでは、食糧支援を希望する若者のうち、約2人に1人が「ごはんを食べない日がある」と回答した。

応援コメントのなかに、「直接関わっていなくても、寄付という形で応援している大人もたくさんいると伝わりますように」という言葉があった。

こうしたひとりひとりの気持ちの積み重ねが「おせっかいを焼いたり、焼かれたりする場」の復権につながるのではないか。

私は、それを信じたい。

しんどい人に、より皺寄せがいってしまう社会のなかで、「おかしいな」と思ったことをスルーしない大人でありたい。これからも、やさしいセーフティーネットの網目のひと編みになるべく、小さくてもなるべくおせっかいの手を挙げていきたいと思うのだ。

それは、私にとって、暮らしのなかの政治闘争でもあり、結局は、自分自身を温めてくれるブランケットのようなものでもあると思う。

執筆:南 麻理江 / 株式会社湯気/編集:熊井かおり

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書いた人: 南 麻理江
編集者・株式会社湯気 代表取締役

1987年広島県生まれ。株式会社「湯気」代表取締役。編集者。
2011年博報堂入社。インターネット広告のセールス、プランニングに携わる。2017年5月よりハフポスト日本版にて記事や動画、イベントなどの企画・制作・編集をおこなう。「日常会話からSDGsを考える」をテーマに掲げたライブ番組「ハフライブ」ではホストも務めた。2022年6月、株式会社「湯気」を設立。“世の中を変えるかもしれない「熱」をなだらかに伝えていく”をコンセプトに社会課題に向き合う企業や組織に並走する日々。

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