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家族だけではない、社会のセーフティネットがあることを知ってほしい

体調を崩したり、家庭の事情などにより、夢を諦めざるを得ない若者が多数います。そんな若者たちがユキサキチャットを通じて支援を受け、それぞれの道を歩み出しています。

今回は、父親に奨学金を使われてしまい、生活費や医療費が必要になった相談者の達也さん(仮名)にお話を伺いました。達也さんはユキサキチャットで現金給付、食糧支援を受けることで体調を回復し、現在は自分と同じような状況の人をつくらないために、民間のセーフティネットづくりに携わっています。

家庭内暴力や奨学金を使い込まれてしまった

──ユキサキチャットに相談したきっかけを教えていただけますか

最初は友達の紹介でした。ちょっと大変そうだから「こういうのはどう?」ってユキサキチャットを勧めてもらったんです。n=3という、たまたま発生した3人の共助LINEグループがあって、そこでよく相談や情報交換する関係性の友達がいるんです。

当時は外出できるような気力もないし、仕事するようなメンタルや体力もありませんでした。でも仕事しないと生きていけない経済状況で。じゃあどうやって仕事するのか、いやでも仕事するのはきついなみたいな感じで、すごく困っていました。そのときは業務委託で動画編集の仕事だけしていて、次の仕事先を探しているような状態だったと記憶しています。基本的にはパソコンを使って家でできる仕事ではあったのですが、仕事量自体もすごく少なくしてもらっていました。

──しんどかった原因や当時の状況について教えていただけますか

まず、僕は大学に入る前に腎臓の病気になっていました。ただ大学には行きたかったので、ひとりで地元を離れました。貸与型の奨学金を借りながら大学に通って、病院代もそこから賄っていたんです。その奨学金の管理をしていたのが父親でした。僕が生まれてすぐに両親が離婚したので、父とのふたり暮らしで母はいませんでした。そのうち僕の入院代とか生活費として使うはずの奨学金を父親がギャンブルで使ってしまったんです。それで治療費を払えない状態になったので、これは生活できないなと。

イメージ写真

父親とは小6から2人で住んでいたんですけど、もう殴る蹴るとか結構やられてました。警察沙汰にも何度もなりかけて、一回は本当に警察が家に来たこともあります。友達とか友達の家族、塾の先生にも相談して、何度か塾に逃げたりもしました。

父親とはもう絶縁状態が7年ぐらい続いてます。そのような状況のなかで祖父の妹さんが亡くなって、そのまま祖父が一気に元気がなくなってしまったんです。自宅で転倒してしまったりするのですが、僕の父親ともあまり仲がよくなかったこともあって、祖父をサポートできる親族がいませんでした。それで僕の方によく連絡が来るようになりましたが、僕は僕で大変な状態で何もできなかったことも、しんどくなってしまった原因のひとつだったように思います。

──日本社会の最小単位が世帯とか家族になってしまっていることが問題ですよね

そうですね。今僕は世帯分離しているのですが、コロナ禍に入ったときはまだ分離していませんでした。でもたまたま給付金(新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金)をもらう半年前に分離していたんです。だから助かりましたが、そのときに分離できていなかったら、親の方に給付金が振り込まれて勝手に使われていただろうなと思います。そういうところは本当に日本社会の問題ですよね。

セーフティネットが一つ増えた心強さ

──そもそもの話になりますが、なぜ大学に行こうと思ったのでしょうか

大学に行くのは、ほとんど親の夢みたいなところがありました。なんか自分の息子を国公立大学に行かせることが俺の夢だとずっと言ってきた親だったので、いろんなことをされたことがしんどいときもあったんですけど、なんか僕がしてあげられる最低限の親孝行なのかなと思って。ぐるぐる考えた結果、そこに着地しました。ちょっとしんどいながらも大学は卒業したいなと。

親に対してある種の恨みとかはあるけど、完全に他人みたいな感じで扱えるかっていうとそうではないという。どうしても割り切れない。だからこそしんどいっていうのもあります。

──ユキサキチャットとつながってどんな相談をしていましたか

相談はそこまでしてない記憶があります。でも、全く利害関係がないのにちゃんと話を聞いてくださる方がいて、セーフティネットが1つ増えた心強さがありました。

あとは特に食事の支援をしていただけたのが助かりました。 当時は本当にお金がなくて、大学も休学せざるを得なくなり、​​1日に卵6個だけしか食べないような生活を送っていました。やっぱり食事を摂ると気力が回復しますよね。ご飯をちゃんと食べられるようになったら大学に少しずつ行けるようになって、仕事も別の職場を探して長期のインターンを見つけられるようになりました。

食事の支援だと特にご飯とパスタをいただけたのがすごく嬉しかったです。パックのご飯と乾麺が助かりました。しんどいときってあんまり動きたくないんですよね。でも食べないといけない気持ちもあるので、レンジでチンしてご飯に卵かけたら栄養的にもいいかなみたいに、サッとできるものがよかったです。

支援を利用していたのは全体で6か月ぐらいですが、5か月目くらいに長期インターンで仕事を多くいただけるようになってきて、自分で生計を立てながら大学にも通えるような状態になりました。

D×Pの食糧支援で実際にお送りしているもの

インタビューに答えた二つの理由

そのなかで、今僕が協力できることが2つぐらいあると思っています。1つは僕がインタビューに応えること。というのも、ユキサキチャットに相談するとき、ネットでたまたま見つけて応募するかって言われたら、僕だったらちょっと躊躇しちゃうなと思って。理由としては、実際に支援されてる人がどういう人なのかがわからないのと、そもそも自分が対象になるかもわからないかなと。

そういう理由で、教えてもらってもちょっと微妙かなってやめてしまうこともあると思うので、僕が記事に出て、僕のように家族にちょっと問題があって親に頼れない1人暮らしの大学生で、病気を持ってるような人が、「あ、私も当てはまるかもしれないから相談しよう」というきっかけになるかもしれないと思いました。

もう1つは、今僕が奨学金の情報サイトをやっているガクシー(株式会社ガクシー)という会社でインターンをしていて。最近は、若者の可能性を広げる新しいお金の流れを創造するを目的に、さまざまな企業様とタッグを組み、企業様にも学生にもメリットがある形で、協賛型の奨学金の立ち上げを行なっています。その奨学金への応募理由や志望動機を見ていると、困っている人が多いんです。

そういう意味ではユキサキチャットと親和性が高いと感じています。だからガクシーに情報を載せたら、困窮している若者が知ることができるのではないかと思っています。

──ありがとうございます。困っている大学生へのセーフティネットをつくっているんですね

そうです。そのなかで横の連携をもうちょっと強化していったらいいんじゃないかというイメージを持っていて。最近だと、資格が必要な職業に就きたいけど自分で生計を立てないといけないから勉強をすることができない方に、ガクシーと企業のコラボで作った奨学金をお渡ししました。

──とても大事ですよね。資格を取るとか勉強することは、今の状況から抜け出す重要な手段だと思います

いや、本当にそうですね。大学とか専門学校に入ってから、例えば家庭の事情で自分で学費を払わなければならなくなったり、資格をとるなどお金が必要になった人も本当に苦しそうなんです。

達也さんが普段使用しているパソコン(ご本人提供)

知っているか知らないかで人生が左右される状況を変えたい

──ガクシーさんで働こうと思われたきっかけは何だったのでしょうか

僕は奨学金を貸与型で借りていたんですけど、家計基準を満たしてたので本当は給付型を取れたんです。でも僕はそれを知らなかったので、卒業したら700万くらい返さなきゃいけない状況にあります。そういう風に、情報を知っているか知らないかっていうだけで人生が大きく変わってしまう状況を、本当に変えないといけないと思いました。あとは仲のよい友だちが病気をしてお金が払えなくて大学を退学した人が何人もいたので、それもきっかけです。

──奨学金の情報はみなさんどのように調べていらっしゃるんでしょうか

高校生の情報源は基本的に先生だけです。ただ高校の先生は1年ごとくらいで担当を変わってしまうらしいので、そうすると結局日本学生支援機構の話しかできない構造的な問題もあります。大学生だと、何社か奨学金のまとめサイトがあるので、そこで自分で調べているということも聞きます。

──同じように困っている方に対して、メッセージをいただけますか

やっぱりつながりは家族関係だけではないんだなと、改めて強く思います。支援をしていただくとなったとき、役所に行ったら大体最初は家族との関係を聞かれると思います。でも僕の場合は、家族にお金を渡さないといけないような状態でした。自分がしんどいなかで、そういうことをするのは本当にきついと思います。

そのなかで、血縁関係のない方々から支援をいただけたり、セーフティネットがあるっていうのは、本当に家族関係できつかった僕のような人にお伝えしたいです。家族ではない、社会のセーフティネットに頼るという方法があることを知ってほしいと思います。そこで手を差し伸べてくださる方がいらっしゃるということを、僕の実体験からお伝えしたいです。

そして、当時仕事をくださった社長さんや、支えてくれている友達や先輩にも感謝をしつつ、私自身いただいた恩を回していきたいです。

インタビュー・執筆:青木真兵/編集:熊井かおり

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