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「しんどいな」を遠慮せず言える場所をつくりたい。高校でつながる場をつくり続けるD×Pスタッフインタビュー

「しんどい」の、そのひとことが言い出せない。
こうしなければならない、という決まりのようなものにしばられて頑張りすぎてしまうことがわたしにはありました。世の中には意外と、「頑張らなくても、そのままの自分でいられる場所」は少ないのかもしれません。

「遠慮せずに『しんどいな』を言える場がもっとあったらいいのに」
「肩書やレッテル、社会の枠組みに関係なく、人が人として関われる場をつくりたい」

そんなふうに語るのは、高校生をサポートするNPO法人D×P(ディーピー)で、日々高校生と関わる玉井(たまさん)と、塩谷(えんちゃん)の二人。どんなことを大切に、通信・定時制高校で行っている授業「クレッシェンド」をつくっているのか、聞いてみました!

クレッシェンドとは? 
通信・定時制高校で行っているD×Pの独自プログラム。高校生とD×Pのボランティア「コンポーザー」が対話する全4回の授業です。ひとりひとりに寄り添いながら関係性を築き、人と関わってよかったと思える経験をつくります。4回の継続した授業のなかで次第に人とのつながりを得て可能性が拡がるように、音楽用語でだんだん強くという意味のクレッシェンドと名付けています。

この記事に出てくる人たち

新卒で働いていた会社でストレスから体調を崩し、3ヶ月休職する。復職した後、少し元気になっていた頃にD×Pと出会う。「会社でしんどいと感じた経験を活かせるかも」「ずっと興味のあった教育の分野に携わりたい」と思い、最初はコンポーザーとしてクレッシェンドに関わる。現在はD×Pの正職員となり、クレッシェンドの運営全般を担当。
たまさん
教員になるために大学に通っていたけれど雰囲気が合わなくて、学校に行くことがしんどくなる。そんな時インターネットで見つけた「否定しない」を大切にするD×Pに興味を持って、コンポーザーに。クレッシェンド・佐野工科高校での居場所事業を担当するインターン生として活動(当時)
えんちゃん
「わたしのやりたいことって何なんだろう」と悩んでいるうちにD×Pと巡りあった大学4回生。この記事のインタビューアーの広報インターン生(当時)
いもりん

年下の子たちと、一緒に仕事をしてて気づかされることがめちゃくちゃ多くって。

いもりん:D×Pでは正職員とインターン生の距離が近いなと感じてて。たまさんとえんちゃんはお互いをどういう人だと思っているのですか?

たまさん:えんちゃんは「初めての立ち位置の人」。学生時代の部活とか前職ではしっかりした上下関係があったのだけど、D×Pでは年上だとか年下だとかを超えた深い関わりあいができる。だから年下の子たちと、一緒に仕事をしてて気づかされることがめちゃくちゃ多くって、特にえんちゃんは。

いもりん:えんちゃんはたまさんのことどう思う?

えんちゃん:周りにいるひとりひとりの、その日の状態をとても気にかけていて、評価よりも共感をしながら話を聞いてくれます。だから話していていつも安心感があります。飾ったり、驕ったりする姿を目にしたことがなくて、すごいなぁって。あとは、みんなと一緒にわくわくしてくれるひとです。

インタビューの前にクレッシェンドの打ち合わせをするふたり。時間をかけて細かいところまで話し合っていました。

「お互いのバックグラウンドを認め合える雰囲気」がD×Pにはある。

いもりん:D×Pのどういうところが好きですか?

たまさん:D×Pで仕事をしていると、「人っていろんなバックグランドを持っているんだな」って気づくんだよね。そして「そのバックグラウンドを認め合える雰囲気」がD×Pにはある。そこが俺は好きで。

いもりん:前のお仕事先ではそういう雰囲気はなかったのですか?

たまさん:みんながそれぞれのバックグラウンドを持っていたと思うんだけど「業務に関する知識を持っているか」とか「人間関係を円滑に進めることが得意か」とかの方が重要視されていたのかな。だからしんどいって思うこともよくあって。でもD×Pに来てからひとりの人間として楽でいられるようになった。

自分が思いこんでる以上のその人に出会えるのがクレッシェンドだなって感じてて。

いもりん:えんちゃんはクレッシェンドという現場で心がけていることって何かある?

えんちゃん:『D×Pの大切にする姿勢※』である「ひとまとまりではなく、ひとりひとりと向き合う」「否定せずに、関わる」「様々な年齢やバックグラウンドの人から学ぶ」かな。でもその三姿勢が、生徒にとって本当に良いものなのか、もっと良いものはないのか、ということをひとりひとりと関わりながら常に考えていて。表情やその日の状態を見ながら、生徒との距離感を考えて関わる「寄り添う人」でありたいというのがわたしの理想です。

D×Pスタッフの大切にする姿勢
2019年度にこれまで大切にしてきた姿勢を受け継ぎながら「否定せず関わる」「ひとりひとりと向き合い、学ぶ」「オーナーシップを持つ」「翻訳者になる」の4つにアップデートされています。全ての姿勢に共感し、体現しようとする人がD×Pで働いています。

いもりん:そのクレッシェンドの場をつくるときに、悩むことはなかった?

えんちゃん:悩むことは常にあるから、「悩まない」ということはないです。最近の悩みのひとつは、「教育」でも「支援」の場でもない「ひとりの人として関わる」ことを大事にしているクレッシェンドという場に、支援や教育のお仕事をされているコンポーザーさんがいらっしゃった時、その方たちが大事にしていることを「否定しない」にはどうしたらいいのだろうかということかな。支援や教育のお仕事に限らず、様々な職業、年齢のコンポーザーさんが持つそれぞれの価値観を「否定せず」に、クレッシェンドという場をつくのはすごく難しいなと思ってる。

でもそうやって生徒のことも、コンポーザーさんひとりひとりのことも考えていくのが価値なのかなと思います。

 いもりん:クレッシェンドの現場にいて考えさせられたことはありますか?

たまさん:生徒やコンポーザーさんと関わるときに、「レッテルを貼らない」という意識はしているのだけど、その人となりを勝手に想像してしまうことは時々あるんだよね。

いもりん:たまさんでもそういうことがあるんですね。例えばどういう時にそう思いました?

たまさん:ある生徒と関わっている時に、殴り合いのけんかをしたことがあるかっていう話になったんよね。その生徒は、武道をしていてがっちりしていたから「絶対ケンカ強いやん」って思っていたんだけど、その子が「したことない」って言って。その時、ケンカをしたことがある人だと見た目で決めつけていた自分に、はっとして。クレッシェンドでは、そういう勝手な思い込みに気づかされることが多い。その人の意外な部分や「自分が思いこんでる以上のその人」に出会える瞬間がたくさんあると思っているから。

質問にひとつひとつ丁寧に答えてくれたたまさんは気づけばこんなポーズに…。

えんちゃん:わたしも生徒に。生徒とジョハリの窓っていうゲームをしたんだけど、あまり話したことがなかった生徒全員が、わたしに対する印象で「健康」を選んで。理由を聞いたら「大きな夢はもう叶えてそう」とか「望んだものは手に入れてそうに見えるから、今は健康を大事にしてるのかなって思った」って言われて、私はたじろいで。「ほとんど話したことないのに、めっちゃ人のことを見てるな」と。

ジョハリの窓とは?
自分が周りからどう思われているのかを知るゲームです。チームに分かれて、「A , B , C , D , E」とアルファベットが書かれたカードが配られます。そのカードを使いながら、いろんなお題に沿ってチーム内の人の「印象」を伝え合います。えんちゃんが参加した時は、「愛・夢・健康・金・権力」からえんちゃんが大事にしていそうなものを、グループにいた3人の生徒が選びました。

D×Pでは、弱さを隠さないで、深く長いつながりをつくっていきたい。

いもりん:これからやってみたいことはありますか?

たまさん:みんなが頑張らなくても大丈夫な場所をつくりたくって。俺が頑張りすぎちゃう方やから。人って「どんなことがあっても、頑張ったら何とかなるし」っていう時はいいんだけれどそれができなくなった時に「自分の軸ってなんやろう?」って迷走してしまうことがある。そうならないように「しんどいな」を遠慮せずに言える場がもっとあったらいいのになと思ってて。だから今担当しているクレッシェンドをもっとそういう場にしたいな。

えんちゃん:わたしは自分の弱さを出すことが苦手で、いつも自分と人の間に一線を引いてしまったり、強がってしまうことがあります。でも、そんな私にも、本音で伝えてくれる人がD×Pにはいて。

人と本気でぶつかったり、関わることからずっと逃げて来たからこそ、D×Pでは、弱さを隠さないで、ひとりの人として、深く長いつながりをつくっていきたいと思います。そして、D×Pをこれからもそんな場所にしていけたらと思います。

一時間のインタビュー後に「まだまだ話し足りない!」と言っていたふたり。D×Pのプロジェクトにかける思いをそんな場面でも感じることができました。

「しんどい」って言い出せない。

それは、社会の枠組みや肩書きやレッテルに添わせようとしてしまうから、かもしれません。誰かの期待に答えようと頑張ることは悪いことではないけれど、今の自分の状態とかけ離れている期待には、ひどく疲れてしまいます。

「しんどい」も「たのしい」も、どんな感情も。
押さえ込まずにお互いに認め合えるからこそ、目の前の人と安心してつながることができます。

高校生だからこうしなければいけない、オトナだからこうしなければいけない。
クレッシェンドは、そんな枠組みをそっと外して、人がそのままでいてその存在を認められる場を目指しています。

そんな場を私たちと一緒に、高校の中につくってみませんか?

インタビュー/文責:伊森香南(当時D×P広報インターン)


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