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血の繋がりがないけど、家族みたいにいられる居場所をつくりたい。 ー海外に行ってみた、ちなつちゃんの「その後」のはなし

ワールドチャレンジ募金にて、ピースボートが主催する2017-18年ニューイヤークルーズにD×Pが送り出した、20歳のちなつちゃん。クルーズでは、横浜より出発し、基陸(台湾)・宮古島(沖縄県)を9日間かけて巡りました。

ワールドチャレンジ募金とは?
経済的困難や、不登校経験、発達障害などによってしんどさを抱えた高校生に「世界を見る経験」を届けるための寄付プログラムです。高校生が海を超えて、様々なものを見聞きできる機会をつくります。参加する高校生は不定期に公募・選考しています。

2018年9月からはD×Pのインターン生となるため、東京から大阪に引っ越すことになりました。インタビューを行なった日は、初めて一人暮らしをする家を契約してきたのだそう。

クルーズから帰ってきたあとは、何してたの?と聞くと、

ちなつ:ビジネスコンテストとか、簿記の検定を受けたりとか。あとは、過去の自分の経験を人に話す機会があって。ビジネスコンテストのときは忙しくて。3ヶ月間ずっと頭が休まらなかったですね。東北の地域活性化がテーマだったんですが、現地の野菜を使ったビジネスモデルを考えました。

と、精力的に動き回っていたことを教えてくれました。「賞もいただいたんですよ。」と話す彼女は、とてもまっすぐでパワフルです。

U-25 TOHOKU ソーシャルビジネスコンテストで『自治体賞』を受賞!後日、リファインドで記念撮影しました。)

船に乗る前の生活を聞くと、

ちなつちゃん何にもない日は、マジで家からでなくて。カーテンも閉めて、自分の部屋からも極力出ないぐらい。Youtube見たりとかInstagram見たりとかずっと携帯いじってて。ネットの前から離れられませんでした。

と、クルーズ後の忙しく動き回る彼女とは正反対のイメージ。本人曰く、オンとオフがはっきりしすぎている性格なのだそうですが、インターネットの使い方はこのクルーズでの出会いをきっかけに変わったのだそうです。

今回は、彼女の人生を少しだけ覗くように。船旅のこと、“これまでのこと”と、“これからのこと”を聞いてみました。

やっぱ、地上っていいなぁって(笑)。

D×Pスタッフ: 初めての船旅だったんだよね、楽しかった?

ちなつちゃん:楽しかったです。でも、一緒に参加したメンバーの中で、一番船酔いしてたと思います。もともと乗り物酔いするタイプだけど、人生で一番の不調って感じでした。「もう動けん…ああ、1日無駄にした…」と思ってたけど、台湾に着くと元気になって。やっぱ、地上っていいなぁって(笑)。

(ワールドチャレンジ募金の参加者と撮影。右から2人目がちなつちゃん。提出してもらった日記には、「今日の気持ちを漢字一文字で表すと『輝』久々めちゃくちゃテンションが上がったから。あと夜市の電飾が輝いて綺麗だった。」と書いてありました。)

D×Pスタッフ:きらきらした屋台とか、カウントダウンの花火とか。参加者のみんなが送ってくれた写真や動画を見てすごくわくわくしたよ!だいたいみんなで行動してたの?

ちなつちゃん:ワールドチャレンジ募金の参加メンバーだけじゃなく、未成年の乗客の子も一緒に行動していて。船に乗ってすぐに、ピースボートに乗る未成年者で顔を合わせました。兄弟で来ている人とか、ひとりで来ている人もいて。「へー、ひとりで来るんだ!」って思いました。

D×Pスタッフ:そうなんだね。今回のクルーズで印象に残っている人との出会いはある?

ちなつちゃん:ワールドチャレンジ募金で一緒に参加したしっちーかな。同世代で、高校も行ってなくって。でも、動画作ったり文章書いたりして活動をしてる。それだけじゃなく、作ったものや書いたものを「作っています、書いています。」って発信して、いろんな人に知ってもらうようにしてたんですよね。それを聞いて、見つけてもらうのを、待っているだけじゃだめなんだと気づきました。そんなしっちーに刺激受けて、今は文章を書いたりインターネットで発信したり、自分から動くようになりました。

他にもしんどい子がいて、自分だけじゃない

D×Pスタッフ:ちなつちゃんは、リファインド(NPO法人キッズドアが開く無料の学習支援教室)で、ワールドチャレンジ募金を知ったのが参加のきっかけだったんだよね。リファインドには、どういう経緯でいくことになったの?

ちなつちゃん:高校を中退して、高卒認定試験を受けようと思っていたんです。でも、お金の余裕がなくて塾に通えないという状況で。それを高校の先生が知ってたので、「無料の塾があるよ」って教えてくれました。

D×Pスタッフ:リファインドに出会うまで、不登校や中退といろんなことをがあったんだよね。

ちなつちゃん:そのときは、自分が一番可哀想って思ってました。でも、リファインドに通うようになって、同い年の女の子に出会って。その子は『友達』というよりは『同志』なんだろうなって思います。そんな彼女のバックグラウンドを聞いたとき、「可哀想だ」って思ったらだめなんだけど、可哀想だと思って。自分以上に大変なんだろうなって思っていたら、私が思ったことと同じようなことを彼女が私に言ったんです。

その言葉を聞いて、「つらさって、人それぞれなんだ。比べちゃいけないんだな」って学んで。リファインドに通うようになってから、他にもしんどい子がいて自分だけじゃないんだって思えたんです。いい意味で気持ちが変わりました。  

ワールドチャレンジの応募フォームには、過去のつらかった経験を書く欄があります。ちなつちゃんの応募情報にはしんどかったことの背景やそのときの気持ち、今感じていることが細かく書き綴られていました。

D×Pスタッフ:中退のあと高卒認定試験も受けて、AO入学でスポーツトレーナーになるための専門学校も決まってたんだよね。でも、経済的な事情で諦めることになったって。

ちなつちゃん:最近、それがやっと吹っ切れたと思います。それまでは、やっぱりどこか気にしてて。自分が諦めたいから諦めたわけじゃなくて、環境のせいで諦めたって思っているところがあったんです。今は、自分のやりたいことが変わって、スポーツトレーナーもやろうと思えばいつでもできるって気づいた。だから「もう笑って言える」そう思いました。

自分の経験を発信するのはチャンス

D×Pスタッフ:自分の生い立ちを話すイベントがピースボートの中でもあったんだよね。

ちなつちゃん:乗客の若者がスピーチをするイベントですね。ピースボートのスタッフの人に誘ってもらいました。私は、自分と似たような経験をしている人を助けたいと思っているので、自分の経験を発信するのはチャンスだと思って。それで「ぜひ、やります」って。

D×Pスタッフ:すごい!それでスピーチしたんだね。聞いていた人から感想とかもらったりしたのかな。

ちなつちゃん:「親が離婚してて、学生時代ちょっと悩んだりした。でも、話を聞いて自分だけじゃないんだと思った。」と言ってくれた人がいました。その時に「ああ、これだ!」って。自己満足かもしれないけど、私がしたいのは「こういうことだ!」って。

D×Pスタッフ:ちなつちゃんが経験を話すことで、まさに他の人の気づきのきっかけになったんだね。

親でもあり、先生でもあり。先輩でも、友達でも・お姉ちゃん・お兄ちゃんでもある。

D×Pスタッフ:将来やってみたいことって、どんなこと?

ちなつちゃん:リファインドみたいな感じですね。血の繋がりがないけど、家族みたいにいられる居場所。

私、リファインドの雰囲気がすごくすきで。スタッフは親でもあり、先生でもあり。先輩でも、友達でも・お姉ちゃん・お兄ちゃんでもあって。臨機応変で立場が変わっていく。自分も子どもたちにとって、そういう人になりたいと思っています。リファインドは居心地のいい場所だから、みんな「帰りたくない」って言うんです。本当にしんどい子は、家に帰るのもしんどい。だから、帰らなくちゃいけないっていうのをなくしたいなって。  

D×Pスタッフ:リファインドのどういうところが、いごこちがいいんだろう?

ちなつちゃん:例えば、好きなものを主張できるんですよ。スタッフも生徒も、誰も否定しないんです。他にもスタッフでも生徒でも、誰かが一人困ったらいつもみんなが一緒に考え出すんですよ。そういうところも好きですね。

D×Pスタッフ:いい空間だね。そのなかでちなつちゃん自身は、どんな立場なの?

ちなつちゃん:みんなから「お姉ちゃん」って呼ばれます。私が、大阪に行くと言ったから、最近はみんな涙目にして、「行くのやめようよ〜」って言うんです(笑)。

クルーズの出発の日にも、リファインドのみんながお見送りに来てくれたそうです。

D×Pスタッフ:お姉さんって、慕われているんだね。どうしてリファインドを離れて、大阪のD×Pに来ようと思ったの?

ちなつちゃん:やりたいことが若者支援だったので、関わりのあるNPOでインターンしたいと思って。大阪だったら行きやすいし、行き詰まったときにも遊べそうだからっていう理由と、とりあえず家から出たかったっていうのもありました。これまで、私が不登校を繰り返したり、高校を2回中退したり。どんどん母の理想と、私が逆の方向にいっちゃったんだと思います。それで、私の居場所がなくなっていって。でも、実家に居場所がないと感じたまま、大阪に行くのはいかんわって思いました。母と話して、前には進んだ感じですね。

D×Pスタッフ:そうなんだね、よかった。私だったら話をすることから逃げてしまいそう…。D×Pのどこに心惹かれたんだろう?

ちなつちゃん:『否定せずに、関わる』ですね!否定しないことを大切にしているD×Pだから、自分もそこで活動したいなって。それに、私は通信制と定時制の高校しか行ったことなくて。だから、通信制と定時制の高校で授業をしているっていうのを聞いて、関わってみたいなと思いました。

D×Pスタッフ:通信制と定時制高校に通ったことのあるちなつちゃんだからこその視点もありそう。一緒に働くのが楽しみだね〜。

否定されることは怖いけど、自分のことを発信しないと否定もされない。

D×Pスタッフ:最後に、クルーズに参加してみて、よかったことはある?

ちなつちゃん:もっと人と関わろうってプラスな気持ちになれた。自分の情報を発信することもそう。否定されることは怖いけど、自分のことを発信しないと否定もされない。 

D×Pスタッフ:ほんとだね。私も否定されるのは怖いけど、何も相手に見せなかったら否定もされないことがあるってことに今気づいた。なんでそう思うようになったんだろう?

ちなつちゃん:クルーズは、人をもうちょっと好きにもなれたという瞬間でもありました。船には、めっちゃ人がいるじゃないですか。部屋から出れば、誰かいるんですよ。せっかく誰かがいるんだったら、関わろうって。 

D×Pスタッフ:ちなつちゃんにとって、船の中はいい距離だったのかな。

ちなつちゃん:そうですね、いい距離感。普通の生活ではない、なんだろう?そもそも地上じゃないし、場所が全然違うっていうのもあるかもしれないけど。船は広いように見えて、狭いし。だから同じ部屋の人がインフルエンザにかかったら、私も隔離もされたし(笑)。ただ、ひとりでいることもできるけど、誰かといるほうが楽しい。

人と関わるのが苦手。

だから、高校を中退することにもなった。そう話していた彼女は、年下の子たちから「お姉さん」と慕われています。

リファインドでの出会い、クルーズでの出会い。

そして、D×Pや彼女にとっての新天地となる大阪で。家にも学校にも居場所がないと感じていた彼女の居場所は、どんどん広がっています。彼女の生きる世界をもっと覗いてみたくなりました。

ちなつちゃんがリファインドに初めて行った日は、D×Pがリファインドで授業をしていたのだそう。その時出会ったスタッフは、元職員の金子。インタビューのあと、もうすぐ住むことになる新しい家の間取りを見ながらおしゃべりしていました。

インタビュー/文責:磯みずほ


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