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「無理に会話しなくても、お互いそこにいるだけでその場が成り立っていたらそれでいいのかな」コンポーザーインタビュー: 田中雅美さん

通信制・定時制高校の高校生に人とのつながりをつくる授業(クレッシェンド)を届けているD×P(ディーピー)。授業のなかで高校生と対話するボランティアがコンポーザーです。不登校経験がある方、いろんな仕事を経験している方、家庭がしんどかった方、世界一周した方、ずっと悩みながら生きているという方など、職業も経験も背景も様々な方が参加してくださっています。

コンポーザーとは? 
20歳~45歳の経験も背景もバラバラな大人たち。高校生に何かを教える立場ではなく、否定せず関わることを大切にしています。compose(コンポーズ)は、『構成する』という意味をもつ言葉です。コンポーザーとは、D×Pの取り組みに参加し、プログラムを一緒につくるメンバーという意味を込めています。

今回は、2014年5月〜7月に開講したクレッシェンドにコンポーザーとしてご参加くださった田中雅美さんにコンポーザーになった経緯や、授業に参加してみての感想をうかがいました ! 

学校の先生でもない、友だちでもない、“第3の存在”

D×Pスタッフ:本日はよろしくお願いします! 

田中さん:よろしくお願いします。田中雅美といいます。大阪にある水族館で、広報の仕事をしています。2014年4月から7月に開催されたクレッシェンドに参加させてもらいました。

D×Pスタッフ:クレッシェンドに参加していただいてありがとうございました。田中さんのコンポーザーになろうと思ったきっかけはなんでしたか?

田中さん:たまたまFacebook上で、知り合いがD×Pの投稿をシェアしていたのを見たことがきっかけで、D×Pについて知りました。元々NPOや社会貢献活動には興味があって、Twitterで今井さんをフォローしていましたが、その時に初めてD×P(ディーピー)の事業内容を知ったんです。とりあえず何かしてみたいという思いがあったので、コンポーザー説明会に参加しました。

私は元々、中学時代にいじめのようなことをされていたこともありました。高校でも周囲と話が合わないことが多く、学校生活が楽しくなかったんですよね。大学時代は塾の講師をやっていて、学校の先生でもない、友達でもない“第3の存在”である講師には、生徒も進路の相談や話をしやすいんだなと知りました。高校時代に年上の大人と関われたらいいだろうなと思って、D×Pに参加することにしました。

D×Pスタッフ:どうして、元々NPOや社会貢献活動に興味があったんですか?

田中さん:中学生の時から戦争がどうして起きるのか知りたくて、国際政治の勉強をしていました。アフリカの実態を伝える本を読んで、格差社会が存在することに気づいてから、将来は国際協力の分野で働きたいと思っていたんです。自分も社会貢献活動をしたいと思っていたけれど、高校で周囲にそんな話をしても、共感してくれる人がいなかった。政治学を勉強したいと言っても、「変わってる人」というレッテルを貼られるだけでした。

大学では国際政治を勉強できる所に入学しました。大学卒業後は仕事をしながら社会貢献活動にどう関わればいいかを考えていて、仕事をしながら専門スキルをNPOに提供できる、プロボノ※をやっていました。そこでD×Pのことも知りました。

※プロボノ 様々な分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティアのこと。大阪ではNPO法人サービスグラントを通じてプロボノを経験されている方が多いです。

無理に会話しなくても、お互いそこにいるだけでその場が成り立っていたらそれでいいと思う

D×Pスタッフ:実際に、クレッシェンドに参加されてみていかがでしたか?

田中さん:1回目の授業の時※はとにかく高校生と話さないと!と必死でした。(※クレッシェンドは3ヶ月にわたり、全4回の授業を行います)以前、塾の講師もやっていたので、表面的には会話することができました。でも無理に会話していると、「本当にこの感じでいいのかな。表面だけの会話だけでいいのかな」と思って悩んでいたんです。

授業が終わった後のコンポーザー同士の集まりで、「別に無理に会話をする必要はなくて、お互いそこにいるだけで、その場が成り立っていたらそれでいいと思う」と他のコンポーザーさんが話されているのを聞いて、なるほど、参考にしようと思ったんです。

2回目の授業が終わったくらいから肩の力が抜けて。あの場にも慣れてきたし、3回目の授業からは、会話をしない時間ができても「まぁ喋らなくてもいいか」という余裕ができた。会話が止まると「なんとか喋らないと」と思ってしまいますが、考えてみると、仲がいい友達とは一緒にいても喋らないタイミングがあるし、「無理に喋ってる感」って、生徒に伝わるなと思って。「自分が不安を感じている時は、相手にも伝わっているな」と思って、3回目、4回目の授業では喋らない時間ができても、無理に会話を作ることがなくなった。それから、お互い話したいことをスムーズに喋れるようになりました。

D×Pスタッフ:たしかに、無理やりしゃべるとお互いにその「無理やり感」が伝わりますよね(笑)

田中さん:そう!高校生と接していて、「“はい”か“いいえ”しか返事が返ってこないけど、どうしよう!?」と、最初は常に焦っていたような気がします(笑)

D×Pスタッフ:クレッシェンドの全4回の授業を通して、一番印象に残っている高校生がいたら教えてください。

田中さん:途中、授業で絵を描くことができなかった生徒がいたんです。

その子は、それまですごく楽しく話をしてくれていました。高校生の男の子が私ぐらいの年齢の女の人と喋る機会はそもそもないだろうから「(私と話すのは)怖いかな?」と思ってたんですよ。だけど初対面なのに、彼は自分から話をしてくれて、私に趣味のこともいろいろ教えてくれた。

なのに、授業のなかで「絵を描く」ということをするとなったときに、顔を伏せてうずくまってしまった。理由は結局わからなかったんですけど、おそらく彼にとっては「絵を描く」という行為自体が、しんどいことだったんだろうと思います。私にとってつらいことではなくても、その生徒さんにとっては、苦しいこともある。ふとしたことで、簡単に人を傷つけてしまうこともあるんだということに気がつきました。

他愛ない内容だったんですが、会話の内容を覚えてくれていたんだと思って、嬉しかった

田中さん:あとは、私自身が初対面の人としゃべるのが苦手で。表面的には会話できるけど、生徒の子と上手くしゃべれないときが何回かあったんです。「無理矢理でない会話を作る」というのが私の課題だったんですが、なかなか楽しくしゃべれなくて、むしろこちらから話しかけたら迷惑だろうな、ぐらいに思っていました。

でもある女の子は、最後の授業の時なかなか帰らずに教室に残ってくれたり、メッセージカードも書いてくれていたり…最後にはニコニコ笑ってくれて。「ちゃんと話せば思いは伝わるんだ!」と思いました。

クレッシェンドには、お互いの印象をメッセージカードで伝え合うワークがあります。生徒・コンポーザーが小さな紙にちょっとしたメッセージを書き込みます。

D×Pスタッフ:メッセージカードには、どんなメッセージが書かれていたんですか?

田中さん:「おしゃべり楽しかった」とか、そんな他愛ない内容だったんですが、ちゃんと会話の内容を覚えてくれていたんだなと思って嬉しかったです。カードいっぱいに書いてあったのが印象的で、私のほうは「会話が成り立っていなかったかな?」と思っていたけど、ちゃんと話を聞いてくれていたんだとわかって、嬉しくて。

私は本当に、初対面の人にしゃべりかけるのが苦手なんです。D×Pのコンポーザー説明会でも、知らない人ばかりが集まる場なんだと思ったら、正直行くのが嫌で(笑)それぐらい初めての場、初めての人としゃべるのが苦手でした。だから授業で、こちらから上手く心を開けなかった子たちもたくさんいるなぁと思いました。特にあまりしゃべらなかった男の子たち。

D×Pスタッフ:クレッシェンドを通して、学んだことや今後に生かせそうなことはありましたか?

田中さん:「会話が詰まっても、無理にしゃべらなくていい」とかでしょうか。初対面の会話の時に、相手がどんな人でもすごく役に立つなと思って。

授業を通して高校生と一対一で関わることで、初対面の人と以前より気軽に話せるようになったと思います。また人と一緒に居るときに、たとえしゃべらなくても、隣に座っているだけで「そこにいていいよ」という意思表示につながるだとか、人との関わりに関してたくさん学ぶことができたなと感じます。

他にも、高校生と接していて、お互いちょっと違う世界に生きているんだっていうのはすごく感じました。だからこそ面白いんですが、私は高校生とか中学生とか、下の世代の人と関わる機会がなかなかないので、もっと接していきたいなと思いましたし、何か下の世代に伝えていけることもあったらいいなと思いました。

自分も高校生の時に生徒として参加したかったな。

D×Pスタッフ:どんな人にコンポーザーになってもらいたいと思いますか?

田中さん:自分のいろんな世界を持っている人かな。

授業を終えて、自分も高校生の時に生徒として参加したかったなと思いました。高校生の時、勉強したいことがあったけれど、それを認めてくれる人が周囲にいなかった。今は自分が追求したい分野の話をできる人が周囲にいますが、高校生の時にも周囲の人と自分の好きな分野の話をしたかったし、いろんな世界を見せてくれる大人がいればよかったな、と。自分自身は全日制高校に通っていましたが、通信制高校だけではなく、普通の高校に通っている人たちにもこういう取り組みをしてほしいと思いました。

また、普段は高校生と関わる機会がなくて、仕事以外の関係者と話すことがないような人がコンポーザーをやると、大人としてすごく学べるものがあると思う。それから、人と上手く話せないような人がクレッシェンドに参加してみると、大人として成長できると思います。

D×Pスタッフ:正直な話、またクレッシェンドをやる機会があれば、コンポーザーとして参加してくれますか?(笑)

田中さん:はい、参加します(笑)
ただ、今はクレッシェンドが終わり、しばらく仕事に集中しようと思っています。今ちょうど資格の勉強をしていて。最終的に国際貢献をするという目標があって、それまでにいろんな活動をしたいなと思っています。でもまたクレッシェンドに参加したいという時が絶対来ると思います。その時はぜひ、参加させてください。

D×Pスタッフ:ぜひ!また授業でご一緒できたら嬉しいです。本日はありがとうございました。


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