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「人任せにしていては、未来はない」kintoneで日本中の”チーム”を支える企業が、若者の応援に踏み出した理由|サイボウズ株式会社 執行役員 中村龍太さん

認定NPO法人D×P(ディーピー、以下D×P)は、多くの方からの寄付によって活動するNPO法人です。

今回は、以前よりご支援いただいているサイボウズ株式会社(以下、サイボウズ) 執行役員 ソーシャルデザインラボ所長の中村龍太さん(以下、中村さん)と、認定NPO法人D×P理事長の今井紀明の対談をお届けします。

サイボウズは1997年、愛媛・松山で3人からはじまったIT企業です。「チームワークあふれる社会をつくる」を掲げ、業務改善プラットフォーム「kintone(キントーン)」などを提供しています。

D×Pでは、若者への相談支援や居場所づくりなど、事業の情報管理にkintoneを使わせていただいており、いまや欠かせない社内インフラになっています。さらにサイボウズさんには、法人としてのご寄付でもD×Pの活動を支えていただいています。

なお、今回の記事の執筆には、株式会社ストーリーテラーズさんにご協力いただきました。

週3,000食を、ひとりひとりに届ける—現場を支えているもの

今井:サイボウズさんとの出会いのきっかけは、共通の知人の方からのご紹介でしたね。東京で代表の青野さんとランチをご一緒したのが最初で、数年前だったかと思います。

中村:そのときD×Pさんの活動について聞かせてもらって、驚いたのを覚えています。若者を取り巻く課題と、これほど真摯に向き合っている方がいるのかと。

さまざまな事情で親御さんを頼れない若者から、日々相談が届くとうかがいました。そうした相談を、どのように受け止めていらっしゃるんですか。

今井:D×Pが運営している、ユキサキチャットというLINE相談窓口です。累計で2万人を超える若者が登録してくれています。そこに届く相談に応じながら、食糧支援や現金給付支援もおこなっています。食糧支援でいうと、多いときで週3,000食ほどを届けているんです。

誰にいつ何を届けたのか、一件ずつ記録が残っていないと、現場の業務そのものが成り立ちません。その管理にkintoneを使わせていただいています。

中村:週3,000食はすごい数ですね。そこまでkintoneを頼りにしていただいているとは、思っていませんでした。つくっている側としては、そう言っていただけるのがいちばん嬉しいです。

「チームワークあふれる社会」を、NPOにも——赤字覚悟で、無料にはしない理由

今井:あらためて、サイボウズさんがどういう会社なのか教えていただけますか。そして業務改善プラットフォーム「kintone」は、いまどれくらいの企業に使われているのでしょうか。

中村:サイボウズ株式会社は、1997年に3人ではじめた会社です。いまは1,400人ほどになりました。会社の目的は「チームワークあふれる社会をつくる」ことで、その手段としてグループウェアをつくっています。

kintoneは、公表しているデータでいうと4万社を超えたところです。それとは別に、Garoon(ガルーン)とサイボウズ Officeという、グループウェアの元祖のような製品もありまして、こちらは累計でもっと多くの企業に使っていただいています。

今井:企業向けにそれだけ広がっているなかで、NPO向けの普及にも力を入れておられますよね。僕たちのような団体には、どういう形で提供されているんですか。

中村:「チーム応援ライセンス」というものがあって、NPO法人や一定の条件を満たす任意団体などに、特別価格で提供しています。正直、赤字覚悟の値付けです。資金に余裕のない団体にこそ、チームで動けるようになってほしいからです。我々はもともと、そのための道具をつくってきた会社ですし、「チーム応援」という名前にも、その思いを込めました。

ただ、無料にはしていません。少しでもご負担いただいたうえで、自分たちの道具として使っていただきたいんです。

今井:NPOなど非営利団体が使えるようにと、ツールの面から応援してくださっている、チーム応援ライセンスがありますよね。ただ、非営利団体の側から見ると、道具を入れる余裕がない、というのが正直なところかもしれません。限られた人数で動いていますし、ITツールとして導入するよりも、その場その場で判断したほうが早い場面も多いですからね。

ちなみに今チーム応援ライセンスは、どれくらいの団体が使われているんですか。

中村:だいたい2,700団体です。まだまだ十分ではありません。

おっしゃるとおりで、kintoneは一つひとつ記録を残して、チームで共有していくためのものですから、どうしても入力の手間がかかります。その手間を越えていただくのが、いちばん難しいところなんです。だからこそ、D×Pさんには驚きました。ひとりひとりの若者の情報をチームで共有して、それぞれの持ち場から見守っていく。人数も時間も限られているなかで、そこまでの仕組みをつくられているのがすごいと思います。

今井:現場のみんなで考えながらやってきた結果だと思います。中村さんは、そうやってNPOに道具を届けていくことの先に、どんな社会を見ておられるんでしょうか。

中村:我々はこれまで、企業のなかのチームワークを支える道具をつくってきました。でも、道具をつくるだけでは「チームワークあふれる社会」と言えないですよね。NPOも、任意団体も、チームで動ける場所が増えていくこと。そこまでやって、ようやくビジョンに近づけるんじゃないかと思っています。

見過ごしていた景色に、気づいた日—ビジネス一筋だった役員が、社会課題に出会うまで

今井:中村さんは、いまサイボウズのソーシャルデザインラボ、通称そでらぼで所長をつとめておられます。サイボウズ流のチームワークで、多様な価値観の人が安心して暮らせる社会をつくる。そのための社会実験に取り組んでいる部署だとうかがいました。

ただ、もともとそういうお仕事をされていたわけではないんですよね。これまでのご経歴を、聞かせていただけますか。

中村:はい。もともとは、まったく別の仕事をしていました。前職はマイクロソフトで16年、その前は電機メーカーでインターネット関連の企画に携わっていました。サイボウズに入ったのは2013年です。ずっとビジネスの世界でやってきた人間なので、自分がこういう領域に足を踏み入れることになるとは、思ってもいませんでしたね。

今井:そうした経歴の方が、いまは社会課題を解決するモデルづくりに取り組んでおられる。そのなかに、若者の居場所づくりも入っているわけですよね。ビジネスの世界から、どうやってそこへたどり着かれたのでしょうか。

中村:入口は、教育分野でした。小学校でプログラミング教育がはじまったころです。ある学校を訪れたところ先生から「ここに別室登校をしている子がいます」と言われたんです。学校には来ているけれど、教室には入れずに別の部屋で過ごしている。そういう子がいることを、その時初めて知りました

今井:それを聞いた時、どう思われましたか?

中村:「教室に入れずにいる子は、いま何を感じながら過ごしているのだろう。この先、どんな道を歩いていくのだろう」そんなことを考えるようになり、そこで初めて、「これは社会課題なのだ」と気づいたんです。そう気づくまでに、サイボウズに入ってから10年ほどかかりました。

振り返ると、自分が見ていなかったものに、ようやく気づけた時間だったと思います。人は、自分が関心を持っていることしか見ていないんですよね。私が何度も足を運んでいた学校のなかにも、そういう子たちはずっといたわけですから。

今井:同じ場所にいても、見ようとしなければ見えない。それは、僕たちの現場でも感じることです。その気づきは、いまの取り組みにもつながっているのでしょうか。

中村:ええ。見えていなかったのは、別室登校のことだけではないと思うんです。まだ知られていないだけで、しんどい状況に置かれている人が、いまこの瞬間もどこかにいる。ただ、多くの人はまだ気づいていません。あるいは、気づいていても目を向けずにいる。だからこそ、ちゃんと目を向けることが大切ですよね。

「頼ってよかった」を生み出すために—二つの現場で、試し続けていること

中村:D×Pさんは、そうした若者たちと日々向き合っておられますよね。「今はどんな相談が多いのか」そして「届けるときにはどんなことを大切にしているのか」、教えていただけますか。

今井:不登校に関するご相談が、2〜3割ほどを占めています。それに次いで多いのが食糧支援で、冒頭でお話しした、親を頼れない事情を抱えた若者から届くことが多いです。お送りするときは、ひとりひとりの状況に合わせて、箱の中身を変えるようにしています。調理器具を持っていない子もいますし、女性も多いので、食糧だけでなく、生理用品などの日用品を入れることもあります。一つひとつの関わりが、『誰かに頼ってよかった』と思ってもらえる経験につながればと考えています。

中村:調理器具の「ある・なし」まで見て、中身を変えておられるんですね。そこまで細やかにやっておられるとは思いませんでした。

私たちも、学校に行けない若者と関わっています。うちのチームに、営業から異動してきた社員がいるのですが、その人のお子さんが学校に行かなくなってしまったんです。行けそうな場所を一生懸命に探したものの、なかなか見つからなかった。それで結局、自分の子どものために「サイボウズの楽校」というスクールをつくりました。定員10名の、寺子屋のような場所です。ひとりひとりに向き合える規模にして、2年ほど前にはじめました。

今井:ご自分でつくってしまうというのは、なかなかできることではありませんね。実際に運営されてみて、見えてきたことはありますか。

中村:続けるうちに見えてきたのは、通っている本人だけを支えても続かない、ということでした。親御さんに余裕がなければ、本人もなかなか前を向けません。その子を見守っている大人が、一緒に考えたり、対等に話したりできる。そういう関係があってはじめて、関わりが続いていくのだと思います。

そのためには、関わる人みんなが同じ情報を持っている必要があります。だからいまは、kintoneのなかに、先生も、通っている本人も、保護者も、全員がアカウントを持つようにしています。誰かが書き込めば、みんながその場で見られる。大人だけで話を決めるのではなく、本人も一緒に考えられる場になっています。そういう学びの場の在り方を、2年ほど「実験」してきました。

今井:支える相手は、本人だけではない。それは僕たちも日々感じているところです。いまお話にあった「実験」という言い方も、印象に残りました。

中村:最初から完璧なものをつくろうとしているわけではないんです。何でも、まずはやってみないと始まらない。仮説を立てて試して、そこから学べることを学んで、また次に活かしていく。そういう進め方をしています。

今井:それは、うちも同じです。新しいことを取り入れるときは、いつも手探りになります。たとえば、AIの活用もそうです。現場では慎重に扱うべき個人情報が多いので、議論を重ねながら進めています。いまは、少しずつ試している段階です。

いちばん難しいのは、社内—理解が根づくまでの試行錯誤

今井:中村さんから見て、企業が社会課題に関わっていくときの難しさは、どのあたりにありますか。

中村:寄付は、私自身もはじめたばかりで、まだ試行錯誤しています。経営会議にかけると、サイボウズにとってのメリットは何か、と聞かれることもある。当然の問いだと思うんです。ただ、正直なところ、そこがいちばん難しい。

ですのでいまは、私たちがめざしている姿と、D×Pさんとご一緒して何を生み出していくのか、そしてそれが社会にどうつながっていくのかを、一枚の「寄付協賛企画書」の資料にまとめるような試みをしたいです。

今井:社内に説明する言葉を、まず用意されたということですね。そこから、どんなふうに広げていかれたんですか。

中村:ちょっと前に別の団体で、この企画書を団体と一緒に作成し、それを元に社内で勉強会を開催しました。資料を用意するだけでは社内で話題にはならないので、代表の青野との対談という形で場を設けました。すると、たくさんの社員が聞きに来てくれるんですよ。そこで、ビジネスインパクトとしてkintoneを使ってどんな社会課題を解決できるのか、ソーシャルインパクトとしてどんな社会にできるのか、というところまで落とし込んでいきます。

勉強会を開いてみて、わかったことがあります。それは、社員のなかにも、プライベートでいろいろな活動をしている人がいる、ということです 。1,400人もいると、そうした人を見つけるだけでも大変なのですが、声をかければ、ちゃんと応えてくれる。そうやって社内に輪が広がっていくこと、寄付協賛団体や今後、更にD×Pさんを好きになってくれる人が増えていくこと。結局は、そこに尽きるのだと思います。

今井:もともと関心を持っている方がいらっしゃったことが、勉強会を開いたことで見えてきたんですね。そうして広がったものを、どうやって続けていかれるのでしょうか。

中村:年に一度、「この一年で何ができたのか」「どんな変化が生まれたのか」を、スライドにまとめて経営会議で共有していきたいです。そうして毎年積み重ねていくことで、来年も寄付を続けようという判断につながっていく。少しずつでも続けていくことで、社内に根づいていくのだと思います。

今井:続けることの大切さについては、僕たちも同じように感じています。ご寄付をいただくだけでなく、こうして対話を重ねていけること自体が、D×Pにとって大きな支えになっています。これからも、ご一緒できることを探していけたらと思います。

中村:サイボウズの取り組みも、まだ始まったばかりですけどね。ただ、できていないところが残っているほうがいいとも思っているんです。まだ余白があるからこそ、これから一緒に考えていける。そう思っています。

「一緒に、やれませんか」—企業が「自分ごと」にする未来へ

今井:最後に、同じように社会のために何かしたいと考えている企業の方へ、メッセージをいただけますか。

中村:学校に行けない若者が過ごせる場所や、その子に合った学び方や過ごし方ができる場所は、まだまだ足りていません。いまの仕組みだけでは、どうしても手が届かないところがあります。それを見て見ぬふりをするのでも、国や自治体に任せきりにするのでもなく、民間企業がまずできる範囲で動く。まずは、そこからだと思っています。

今井:企業にとっても、他人事ではないということでしょうか。

中村:ええ。いま、関わりを必要としている若者が、どこかで社会とのつながりを失ってしまえば、いずれは一緒に働く人も、お客さんもいなくなっていきます。自分たちの事業が続いていけるかどうかにも、関わってくることなんです。人任せにしていては、未来はない。私はそう思っています。

今井:そういう土壌を、みんなでつくっていきましょう、ということですよね。

中村:ええ。ただ、サイボウズが一社で言っていても、たぶん意味がないんです。同じような思いを持っている方は、いろいろなところにいるはずですから。だから、一緒にやれませんか、というのが私の考えです。

今井:企業が自分ごととして若者の応援に踏み出してくださるのは、本当に心強いです。僕たちも、そうした企業のみなさんと一緒に取り組める場をつくっていきたいと思います。

インタビュー・執筆:株式会社ストーリーテラーズ/編集:熊井かおり


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