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居場所づくりの原点は「銭湯」だった。 ユースセンターで働くスタッフ・アニーさんが教えてくれたこと。

D×Pで働く人の日常や本音を映す「スタッフインタビュー」に登場してもらうのは、大阪・ミナミのグリ下近くにあるユースセンターのスタッフ、アニーさん。

さまざまな背景を抱える若者たちと一緒に時間を過ごしながら、つながりを大切にしていっています。

訪れる若者たちの、「これがしたい」「これはしたくない」というそのままの声を大切に受け取ることが大事、とアニーさんは話します。ひとりでゆっくり過ごしたり、温かいご飯を食べたり、TikTok用の撮影コーナーやテレビゲームがあったり、スタッフや友達とお喋りしたりと、ユースセンターでの過ごし方はさまざま。

若者の意思を尊重し、それぞれが過ごしたいように過ごせる居場所づくりを心がける背景には、どんな思いがあるのでしょうか?
アニーさんにお話を聞いてみました。

現在、D×Pでは「ユースセンター」を通して安全な居場所であるセーフティネットをつくっていくためクラウドファンディング(7/1まで)を実施しています。

人と場所をつないで、健康を育む仕事

──アニーさんはD×Pにいらっしゃる前、銭湯で働かれていたとか……? 面白いご経歴ですね。

もともと、地元の大阪で障害福祉サービスのNPO法人で仕事をしながら劇団で演劇活動もしていました。そこから、31歳を目前に心機一転上京し、自分の生き方や働き方を探すなかで高円寺にある「小杉湯」という銭湯で働き始めたんです。

東京都にある昭和8年創業の銭湯 提供:小杉湯

他にも、小学生の居場所事業の仕事に関わったり、山梨県に住み2拠点生活をはじめたり、働き方はかなり迷走していましたね(笑)

──色んな場所に飛び込んだんですね。

いま思えば、福祉の仕事や役者の活動を通じて、他者の人生の背景に思いを馳せたり、気持ちを見つめて、その人が生き生きするアプローチをすることに、ずっと関心があったと思います。

小杉湯は「きれいで、清潔で、気持ちのいい」銭湯を続けていくことを大切にしながら、ヨガやランニングができる地域の人の健康活動の場になったり、素敵な本やちょっと良い日用品に出会えるお店でもあり、時にはライブ会場や作品を展示する場にもなり、高円寺のお店とコラボして、より町を知れる地域コミュニティのハブの場所でもありました。

老若男女、さまざまな人が小杉湯を訪れ、癒されたり、元気になったりする姿を見ていて、

人と場所をつないで健康を育んでいくことに深い魅力を感じました。人と人とのコミュニケーションも大事だけど、場所と人とのコミュニケーションの重要性を学んだんですよね。。

そんな中、2022年の年末にD×Pの「街中アウトリーチ」の求人を見て興味を持ちました。マネージャーのもずくさんが、「若者との日々の雑談の中ででてきた困りごとを聞き、必要なサポートにつなげていくことをしている」「ユースセンターの場所だけじゃなくて、地域の人とつながりながら、若者の居場所の選択肢を増やしたい」と説明しているのを聞いたとき、「ここで働きたいな」と思いました。

銭湯の仕事に関わる中で、昔よりも生きやすくなった

──アニーさんがお仕事の中で、「場所と人とのコミュニケーション」に注目されてきた点が面白いです。その原体験はどこにあるのでしょうか?

「小杉湯となり」は、「小杉湯」の隣にある一軒家をまるっと使ったシェアスペースです。1階がキッチン付きのリビングのような場所で、2階が本棚もある書斎のような場所。3階はべランダ付きの個室です。そこで会った人と会話を楽しんでもいいし喋らなくてもいいし、集中して仕事をしてもいいし、ゴロンと寝転がってもいいし、本を読んでもいいし、料理をしてもいい。イベントの企画もできます。

小杉湯の番頭の仕事をしながら、小杉湯となりのスタッフとしても働くアニーさん。提供:小杉湯となり

同じ場所の中でも、それぞれの過ごし方が全然違うし、同じ人でも、お喋りを楽しむときもあればゆっくり本を読むときもあったり、その時々によっても振る舞い方が違うんです。

──多種多様な「場所と人との関係性」が存在する場だったんですね。

銭湯付きシェアスペースだから、「銭湯のような場所にしたいよね」と仲間とよく話をしていたんですが、銭湯って、井戸端会議が生まれる地域のコミュニティでもあるけど、1人で静かにお風呂に入るだけでもいいじゃないですか。自分で選べる良さがあるよね、って。

「銭湯のように思い思いに過ごせる場所」って、どういう設計にしたらいいんだろうとか、何を置いたらいいんやとか、スタッフはどんなコミュニケーションを取ったらいいんや、みたいなところをみんなでめちゃくちゃ話してました。

そこに3年ほど身を置いていたら、何より自分自身がめちゃくちゃ生きやすくなったんです。

過ごし方をその人が選択することができる場

──ご自身が生きやすくなった、というのは印象的です。

「こうしないといけない」と決まっている場所だと、その場に自分が合わずに反発してしんどくなったとか、逆に反発できなくて飲み込んでしまってしんどいとか、子どもでも大人でもあると思うんです。

その場での過ごし方をその人が選択することができるフラットな場があると、役割や関係性も「こうしないといけない」の考えがほぐれていくのを感じて。そんな環境に身を置くことで、自分も肩の力が抜けて生きやすくなったのだと思います。

その人にとっての選択権のある場所は、銭湯でもどこでも良いと思うんですが、ユースセンターもそういう場の一つになれていたらいいなと思います。

──改めて、いまのアニーさんのユースセンターのお仕事内容について教えていただけますか?

大きく3つあって、ひとつ目は、現在週2日オープンしているセンターの運営です。全体の様子を見て、受付やキッチンの調理などスタッフの役割を調整したり、来た子とお喋りしたり、みんなが安心してセンターで過ごしてもらえるように見守ったりしています。

2つ目は、必要に応じた面談や同行支援。出会った若者の話したいことをゆっくり聞いて一緒に考えたり、病院や役所に行く必要がある場合、一緒に行なって手続きをサポートします。

3つ目は、今年度から立ち上がった「企画チーム」の取り組みです。面談や同行支援を進める中で、若者が抱えるしんどさと一緒に向き合うことも大切ですが、好きなことをしたり、やりたいことを経験して、感じたことを一緒に話したり、共有したりする時間もすごく必要です。

そんな機会をつくる為に、地域の方との連携ができると素敵だなと思っています。

本人のペースを尊重して、同じ目線で伴走する

──いま、ユースセンターはどんな若者たちに利用してもらっているのでしょうか?

グリ下やSNSで出会った子に聞いて、来ることが多い印象です。グリ下には、友達に会いに行くとか、誰か気の合う人いるかなって感じで行なって、ユースセンターにはスタッフの手作りご飯を食べにきたり。

中には、グリ下には行かないけど、ユースセンターには行くって子もいます。

──利用者の方とどんなコミュニケーションをとっていますか?

安全を気にかけながら、本人の希望する状態を尊重したいと思っています。

こうしたい、と思う気持ちもあれば、言葉にならない気持ちもあると思います。どんな気持ちでも、そのままの声を受け取ることをチームで大切にしています。

病院や福祉のサービスにつなげることを提案しても、本人が望まなかったり、選ばないこともあります。でも、また別のタイミングでその方が「困った」と伝えたときに私たちは何ができるか、どんな制度やサービスが使えるのか、とチームで確認してちゃんと準備しておきます。

本人の安全を優先して動くと、必ずしも本人の気持ちとは違うことを提案しないといけないときもあり、葛藤もあります。でも決定権は本人にあるので、できる限り本人のペースを大切にしています。

――支援の内容やタイミングを適切に判断するのは、難しくはないでしょうか?

そうですね。だから、関わった一人だけで決めるんじゃなくて、本人の了承を得て、必ずチームで事前に話し合ったり、変わったことがあったら確認し合います。チームの「報・連・相」は本当に大事にしてます。

「わからないという前提」で目の前の人の背景を想像する

──こういう制度があったらいいな、もっとこういう社会になったらいいな、という願いはありますか?

もっと「安心して不安定になれる場所」が増えたらいいな、と思います。大人も子どもも、不安定になることは全く悪いことではなくて、生きてると自然なことだと思うんです。

自分の不安定な気持ちをこぼせる場所や人って、本当は近くにあるかもしれないけど、まだ出会ってないのかもしれない。人それぞれにあった弱さを出せるような場所や人に出会えたら、ハッピーだなって思います。

その人のしんどさって、その人にしかわからないし、全部は絶対にわからない。自分自身のことすらわからないときがあるじゃないですか。だから「わからないという前提」で目の前の人の背景を想像することが大事なんじゃないかと思うんです。相手の行動や発言を、見つめたり聞いたりして、それはどういうことだろうと考えてみる。そうすれば、相手に対してこれまでとは違った感じ方が生まれてくるかもしれない。

親とか子どもとか、 上司とか後輩とか、いろんな役割をときにはわきに置いて、その人が感じた気持ちを安心してこぼせる場所が増えて、自分や相手の中にある多様性を互いに見つめ合える社会になったらいいなと思います。

──いま、D×Pではクラウドファンディングを実施中です(7/1まで)。ユースセンターを支えてくださる皆さんに、一言お願いします。

ユースセンターに来る若い人たちが、自分の過ごしたいように過ごしたり、気持ちを言葉にしたりする経験の中で、エネルギーがたまったり、誰かに頼ってみようと思えたりして、いつか未来の自分の為の行動につながったら良いなと思います。

それには、いまの彼ら彼女らの気持ちや行動には、どんな背景があるのかを想像し、受け止め、見守り、一緒に考え、長い時間をかけて関係性をつくっていくことが大切です。継続するためにはコストもかかります。

若者のその後の人生にも大きく関わってくるかもしれない大事な「一瞬」を共に過ごさせてもらっているという思いで、これからもチームで頑張っていきたいので、ぜひ応援よろしくお願いします。

聞き手・執筆:清藤千秋・南麻理江(株式会社湯気)/編集:熊井かおり

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