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「100円で、1万円分の価値をつくる」NPOの新しい戦い方|クジラ株式会社 代表取締役 矢野浩一さん(前編)

認定NPO法人D×P(ディーピー、以下D×P)は、多くの方からの寄付によって活動するNPO法人です。

今回は、以前よりご支援いただいているクジラ株式会社(以下、クジラ)代表取締役の矢野浩一さん(以下、矢野さん)と、認定NPO法人D×P理事長・今井紀明の対談をお届けします。

クジラは、大阪を拠点に “不動産×デザイン×建築” を掛け合わせ、空間や場所を通じて社会課題の解決に取り組むリノベーション会社です。物件選びからデザイン、施工までを一気通貫で行うことを強みとしている同社。商店街の空き家や空き店舗を客室に変え、まち全体をホテルに見立てる「SEKAI HOTEL(セカイホテル)」でも知られています。

矢野さんには、D×Pにご寄付をいただいているほか、大阪・ミナミの繁華街で運営する「ユースセンター」を立ち上げる際にも、構想から物件探し、デザイン・施工・ブランディング・広報まで、トータルでサポートしていただきました。

前編では、居場所を求める若者が立ち寄れるユースセンターを、一から立ち上げた舞台裏に迫ります。

なお、今回の記事の執筆には、株式会社ストーリーテラーズさんにご協力いただきました。

10年前の出会いが、このプロジェクトにつながった

今井:矢野さんと最初に出会ったのは、もう10年近く前になりますね。

矢野:2014年のことでしたよね。ちょうどPICC(※現、一般社団法人王道経営推進協議会)が設立された年で、大阪支部を立ち上げるかどうか、という時期でした。当社の学生インターンが受付をしていた定例会で、今井さんに講師をお願いしたのがきっかけです。

実は、僕の周りの先輩経営者たちの間では、今井さんを知っている方は多かったんですよ。

「誰かがやるべきなのに、制度からこぼれ落ちている社会課題」に向き合う今井さんのような存在は、珍しかったんです。

今井:僕のほうこそ、クジラさんの存在はとても印象的でした。不動産業界で、これだけ学生インターンや若手が活躍している会社は珍しいなと。それに、矢野さんご自身も経営者としてかなりお若かったですよね。

矢野:そうですね。僕はPICC大阪支部の立ち上げメンバーの中で、当時一番年下だったんです。そこに、さらに若い今井さんが現れた。「自分より年下なのに、とても頑張っている人がいるな」というのが第一印象でした。

ただ「場所をつくる」のではなく、「社会的インパクト」を設計する

今井:PICCでの出会いから10年近く、矢野さんとはご縁が続いていました。クジラさんが、児童養護施設のリノベーションなど、子ども・若者に関わる領域にも携わってこられたことも知っていました。

ですから、2022年末に、D×Pとしてユースセンターの設立にむけて動き始めたとき、真っ先に相談したのが矢野さんでした。そして企画から物件探し、デザイン、施工、開所後のプレスリリースまで、全て伴走していただきました。これほど幅広い領域を横断的にお任せできる会社は、業界でもかなり珍しいですよね。

矢野:不動産業界で施工まで自社で手がけられる会社は少ないかもしれません。工事は外注するのが一般的ですが、当社には施工を担うスタッフがいますから。

僕たちの強みは、「なぜ、この事業をやるのか」というブランディングから、オープン後のプレスリリース、日々の運営まで一気通貫で考えられることです。

その背景には、自分たちで「SEKAI HOTEL」という宿泊事業を運営してきた経験があります。商店街の空き店舗を客室にリノベーションし、食事は街の定食屋さん、お風呂は地域の銭湯を利用してもらう。街全体をひとつのホテルに見立てる取り組みです。

自分たちで事業を立ち上げ、運営まで行っているからこそ、建物を建てた「その後」のことも分かるんです。

今井:ユースセンターでも、建物をつくることだけではなく、まずはコンセプトから、どう運営していくかまで一緒に考えてくださいましたよね。それが本当に心強かったです。

矢野:建物を完成させることは、あくまでスタートにすぎません。

ユースセンターで言えば、本当に大事なのは、その場所ができたことで、どんな人が集まり、どのような変化が生まれるか。行政や業界の関係者に想いが届くのか。そして何より、子ども・若者が「ここなら行きたい」と思える場所になるのか、です。

そこまで見据えて設計しないと、せっかく時間やお金をかけても、本当の価値は生まれません。だからこそ僕は、「100円集めて100円のことをやるんじゃない。100円で1万円分の価値を生む」という姿勢で、このプロジェクトに向き合いたかったんです。

企画の段階から、問いを立て直した

今井:「建物をつくった後」まで見据えるには、そもそも「何のためにこの場所をつくるのか」というところから、設計し直さないといけない。矢野さんは、まさにそこから一緒に考えてくださいましたよね。

矢野:最初に、D×Pさんから「こういうことをやりたい」という話を聞いて、それを僕なりに図解し直したんです。

※若者が過ごす場所の特徴を整理し、ユースセンターに必要な要素を検討した構想段階の資料

「なぜ、若者たちはグリ下(道頓堀のグリコ看板の下)に集まるのか」「カラオケボックスやコンカフェではダメなのか」。ひとつずつ整理して、要件定義そのものを、もう一度組み立て直しました

正直、この提案はD×Pの皆さんに引かれるかもしれない、とも思っていました。日々、現場で若者と向き合っておられる皆さんに、外部から口を出すわけですから。「わかっていないのに、何を勝手に踏み込んでくるんだ」と思われても、おかしくない。

長く活動を続けてこられた方々に対して、「こうあるべきだ」と提案しに行くのは本当に勇気がいりましたし、その伝え方にはずいぶん気を配りました。

ただ、今井さんとは普段から親しくさせてもらっていましたし、こちらの意図をそんなふうに捉える人ではないという信頼もありました。だからこそ、思い切って提案させてもらえたんです。

今井:不動産の領域と、子ども・若者の居場所づくり。その両方を横断して考えられる人が、大阪には少ないんです。

矢野さんは、事業の核心に踏み込んで、僕らのやりたいことを一緒に形にしていってくださった。それが、本当に心強かったですね。

決断が、構想を現実の場所へと変えた

今井:このプロジェクトが実現した大きな理由のひとつに、今のユースセンターとなる物件との出会いがありましたよね。ここが見つかったのは、まさに奇跡でした。

矢野:本当にそう思います。道頓堀周辺は、最初に「希望の条件に合う物件は出てこないですよ」とお伝えしていた場所でしたから。家賃の条件も合わないし、そもそも空き物件がないので諦めてください、と。アメリカ村や心斎橋方面も見ていましたが、なかなかいい物件が見つからなくて。そんな中、ぽっと出てきたのが、この物件でした。

不動産探しにおいては、どれだけ探しても巡り合わない人がいる一方で、すっと引き寄せる人もいる。今井さんは、完全に後者でした。「今井さん、持ってるな」って感じましたね(笑)

今井:運が良かった、それに尽きます。動いてくれたスタッフも含めて、みんなで引き寄せたものだと思っています。

矢野:今、以前のメッセージのやり取りをさかのぼってみたんですが、今井さんから「ミナミにユースセンターをつくろうと思っている」と最初に連絡をいただいたのが2022年の12月でした。そこから物件を探して、契約したのが翌年の4月。オープンが6月末ですから、ものすごいスピード感です。

これだけ早く進んだのは、物件が決まったとき、今井さんが予算をぐっと上げる決断を、すぐにしてくださったからです。

実はまだ、具体的な内装の構想もできていない段階で、僕が「ここまで予算を上げてください」とお願いしたんですよね。部屋にただ家具を並べたような空間では、若者たちの居場所には絶対にならない。逆に、しっかり設計してつくり込めば、ここは特別な居場所になる。そこにお金をかける価値は、絶対にあると思ったんです。

今井:ご提案いただいたときに、これは予算が上がったとしても、やるべきだと思いましたね。僕たちがつくりたいのは、居場所を求める若者が、「ここにいていいんだ」と感じられる場所なのですから。


後編では、矢野さんがなぜ「子ども・若者に関わる領域」に携わっておられるのか、その原点をたどります。そして、ユースセンターの経験から見えてきた、NPOと民間企業の「新しい協働のかたち」に迫ります。


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