「ほっとけない」は、人間の本能、「公欲」と若者支援について|一般社団法人日本経営心理士協会 代表理事 藤田耕司さん
認定NPO法人D×P(ディーピー、以下D×P)は、多くの支援者の皆様からの寄付によって活動しているNPO法人です。
今回は、以前よりご支援いただいている一般社団法人日本経営心理士協会(以下、日本経営心理士協会) 代表理事の藤田耕司さん(以下、藤田さん)と、認定NPO法人D×P理事長の今井紀明の対談をお届けします。
日本経営心理士協会さんは、公認会計士でもある藤田さんが「経営に特化した心理学」を体系化し、全国の経営者に届けている団体です。受講生はのべ10,000名を超え、経営者と社会貢献活動をつなぐ取り組みにも積極的に取り組んでおられます。
藤田さんには、継続的なご寄付やクラウドファンディングへの応援をはじめ、さまざまな形でD×Pの活動を支えていただいています。
なお、今回の記事の執筆には、株式会社ストーリーテラーズさんにご協力いただきました。
「ほっとけないな」——数字の専門家が、子どもの支援に心を寄せた理由

今井:藤田さんとの最初の出会いのきっかけは、共通の知人の公認会計士の方からのご紹介でしたね。2022年頃だったかと思います。
藤田:そうですね。当時すでに子ども若者の貧困問題に関心を持っていて、ほかの支援団体にも関わっていたんですが、「もっと大変な状況の若者を支援している団体がある」と紹介していただいたのが、D×Pさんでした。
今井:そこからD×Pの活動を知っていただいたんですね。
藤田:はい。最初に今井さんの話を聞いて一番印象に残っているのは、数日間、何も食べていない若者のために、すぐに栄養補給ができるゼリーや飲料水といった専用のキットを常に準備している、というお話でした。しかも、それが珍しいケースではなく、そういう若者からのSOSがたまにあるから、用意してあるんだと。それを聞いて、壮絶だなと思いました。
今井:D×Pが運営しているユキサキチャットというLINE相談窓口があるんですが、そこに「3、4日何も食べていない」というメッセージが来ることもあって。すぐに食糧を発送できるように慌てて現場に駆けつける場面が実際にあるんです。そういった場合は、「本当かどうか分からなくても、まず先に食糧を送る」という判断をすることもあります。
藤田:その判断ができるのは、並大抵のことではないと思うんです。本当に命に関わるところに向き合っておられる。これは応援しないといけないと思いました。
今井:そこから、もう4年ほど毎年、ご支援を続けてくださっていますよね。ただ、同じように衝撃を受けても、なかなか具体的な行動にまではつながらないことも多いかと思うんです。藤田さんをそこまで突き動かしたものは、何だったのでしょうか。
藤田:やっぱり「ほっとけないな」という気持ちですね。なぜ僕はほっとけないと感じたのか。この「ほっとけない」という気持ちの正体は何なのか。ここは結構大事なポイントだと思っていて、実はこの問いが、私がいま取り組んでいる「公欲」という考え方につながっていくんです。
「私欲」と「公欲」——人間に本能的に備わっている欲求

今井:「公欲」という言葉、藤田さんの日本経営心理士協会でもよく使われていますよね。
藤田:はい。人間の欲には「私欲」と「公欲」があるんです。私欲というのは、お金を稼ぎたい、人からよく見られたい、成長したい、といった自分のための欲求。一方で公欲というのは、見返りを求めずに純粋に人に喜んでもらいたい、役に立ちたいという欲求です。
今井:公の欲と書いて「公欲」ですね。
藤田:そのとおりです。例えば、友達の誕生日会を企画するとします。その動機が「後から見返りを得よう」というものなら、それは私欲です。でも「純粋にこの人に喜んでもらいたい」という気持ちでやっているなら、それは公欲なんですよね。道を聞かれたときに、何のメリットもないのに丁寧に教えたくなる。その動機は何ですか、と。それが公欲というわけです。
今井:なるほど。寄付もそうですよね。自分のお金が減るわけですから、経済的にはマイナスです。でも「しんどい状況にある子ども・若者のために、何かしてあげたい」と思って寄付をする。見返りがないのにそうしたくなるのは、公欲が働いているということですね。
藤田:まさにそうです。そしてこの公欲というのは、実は人間に本能的に備わっているものなんです。
今井:本能的に、ですか。
藤田:そうなんです。考えてみてほしいんですが、人間って動物に比べたら鋭い爪も牙もないし、腕力もない。こんな弱い存在が、なぜ生き延びてこられたのか。人類の歴史は400万年から800万年と言われていますが、農耕や牧畜が始まったのはわずか1万年前です。それまでのほとんどの時代を狩猟で生きてきた。そのなかで生き延びるための最大の武器が、「チームワーク」だったんです。
今井:チームで動くことができるのは、人間の大きな強みなんですね。
藤田:そうなんです。チームから外れると生きていけない時代が、圧倒的に長かった。だから「チームに貢献する」ことが、そのまま「自分が生き延びる」ことだったんです。そして貢献する個体が生き残り、そのDNAが受け継がれてきた。「みんなのために」と思う気持ちは、人間の脳に刻まれた本能なんです。
今井:D×Pに寄付をしてくださる方々の動機は本当にさまざまです。ただ、その多様な思いの奥には、「ほっとけない」という根源的な感覚もあるのかもしれませんね。
藤田:そう思います。たとえば人に喜んでもらったり、社会のために何かをすると、実際に脳が活性化したり、心身の健康や免疫機能にも良い影響を及ぼす可能性があることが、研究で報告されているんですよ。
公欲の時代へ——「物足りなさ」を抱えた経営者たちが、目覚める瞬間

今井:この公欲という考え方を、経営者の方々に対して伝えておられると思うんですが、どのような反応がありますか?
藤田:とても響く方が多いですね。というのも、業績がすごくよくなって、自分の私欲を満たすだけでは、どこか物足りなさを感じるようになった、という経営者が結構多いんですよ。
今井:たしかに、そういう方にお会いすることもあります。
藤田:もうこれ以上、売上を伸ばすことや事業を拡大することに、意義を感じなくなってしまう。今まで全力で追いかけてきた目標を達成してしまって、次の目標が描けない。そうなると、人によってはメンタルを病んでしまうこともあります。
今井:周りから見れば成功者なのに、本人は「生きている感じがしない」と。
藤田:そういった、次の目標を見失った方々に「もしかすると、次は公欲の目標に目を向けてみるタイミングかもしれませんね」とお話しすると、はっとされる方が多いんです。「地域のために」「業界のために」「社会のために」──そういう選択肢もあるんだと気づかれると、「自分のためだけではなく、社会のために頑張ってもいいんですか」とおっしゃるんですよね。
今井:私欲を満たしたその先に、公欲がある。
藤田:ええ。ただ、公欲の目標を持ちたいと思っても、具体的にどう動けばいいか分からないという方も多いです。
今井:その場合は、NPO団体を支援するということも一つの選択肢になりそうですね。
藤田:まさにそうなんです。自分ひとりで社会課題の現場に入っていくのは難しくても、すでに活動している団体を通じて関わることはできる。その支援自体が、公欲の実践なんですよね。
今井:会社として社会貢献活動に関わることは、社員さんにとっても何か影響があるのでしょうか。
藤田:大きいですよ。社員満足度にもつながりますし、これからは採用にもすごく影響が出てくると思います。というのも、若い世代は特に公欲が強いんです。自分が稼ぎたいとか、出世したいという欲求よりも、「人の役に立ちたい」「社会の課題解決に貢献できる仕事がしたい」という気持ちが強い。学校教育のなかでSDGs(持続可能な開発目標)について学ぶことが当たり前の世代ですから。「この会社は社会貢献活動をやっていないの?」と見られる時代になっています。
今井:「利益だけを追う会社なの?」と思われてしまうと。
藤田:そうなんです。だから、NPOを支援しているということが、採用においても大きなアドバンテージになります。社員さんにとっても、自分の会社が社会に貢献しているんだという実感が、働くモチベーションにつながっていきますから。
大人が元気をもらった——経営者と子どもたちの交流から生まれたもの

今井:NPO支援の方法の1つとして、実際に現場で関わるという体験も大きいですよね。日本経営心理士協会では、受講生の方々と支援先の若者たちとの交流会も実施されたことがあると聞いています。
藤田:はい。うちの受講生──経営者や弁護士、会計士、税理士といった方々が「子どもたちのために何かしてあげたい」と言って来てくれたんです。そこで、大人1人に対して子ども2人の組をつくって、何でも聞いていいQ&A形式の交流会を実施しました。
今井:素晴らしい取り組みですね。みなさん、どんなご様子でしたか。
藤田:子どもたちが「社長ってどんな仕事ですか」とか、「僕、税理士になりたいんですけど、どうやって勉強すればいいですか」とか、純粋な目でキラキラしながら一生懸命聞いてくれるんですよ。大人たちも一生懸命答えていました。
今井:その情景、目に浮かびます。私たちも現場で若者たちと接していて感じるのは、想像以上にしっかりしているということなんです。高校時代からひとりで暮らして、自分でご飯をつくって、切り詰めて生活していたり。聞いていると、自分よりよっぽど、たくましいなと思うことがあります。
藤田:そうなんです。交流会の後に受講生の方々が言うのは、「子どもから元気をいただきました」「本当に今日来て良かったです」といった言葉です。最初は「何かしてあげよう」と思って参加されたはずなのに、逆に大人の方が元気をもらって帰ってくるんですよね。
今井:「かわいそう、何かしてあげたい」といった気持ちから参加された方も多かったかと思いますが、それが覆される体験ですね。
藤田:まさにそうです。同じ人間だけど環境が違う。でも、自分よりしっかりしているところもあって、逆に刺激をいただく。こういうことは、実際に活動に参加しないと分からないんですよね。
今井:本当にそうですね。ちなみに、こういった企画に参加したいという受講生の方は多かったですか。
藤田:実は人数を限定して募集したんですが、「私も行きたい」「私も参加させてほしい」という声が殺到して、お断りしなければならないほどでした。やっぱり社会貢献への関心が高い方は、思っている以上に多いんです。
知ることが、最初の社会貢献になる——ビジネス界とNPO界をつなぐ架け橋に

今井:そういった関心の受け皿として、藤田さんはいま、日本経営心理士協会のなかで「社会貢献コース」も運営されていますよね。
藤田:はい。これは無料で提供しているんですが、そこではまず「いま、日本は、こんな課題を抱えているんですよ」という話をするんです。すると皆さん、びっくりされます。「日本ってそんなに大変な状況なの?」と。
今井:政治もメディアも、なかなか伝えきれていない部分がありますからね。
藤田:そうなんです。知らないから「日本は平和で大丈夫だ」と思っている。でも9人に1人の子どもが貧困で、大人を含めれば6.5人に1人が貧困状態にある。それを知ると、「何か自分にできることはないかな」と意識が変わるんです。
今井:まず課題を知ること自体が、社会貢献の第一歩になりますね。
藤田:その通りなんです。知った人が周りの人に伝えるだけでも、それ自体が社会貢献です。伝えられた人がネットで検索して、D×Pさんを見つけて、月額寄付サポーターに参加してくれるかもしれない。その流れをつくることが大事だと思っています。
今井:ただ、気持ちはあっても、なかなかアクションにまでつなげられていない方もいらっしゃるように感じています。
藤田:そこなんですよね。月1,000円なら協力できる、と思っている方は結構いるのではないかと思います。でも月額寄付サポーターに登録するという一歩が、なかなか踏み出せない。手続きが分からないとか、寄付したことがないから勇気がいるとか。そのハードルをいかに低くしてあげるかが、すごく大事だと思っています。
今井:私たちも、「寄付」という言葉のニュアンスを意識するようになりました。「寄付」だと「してあげる」というイメージがどうしてもある。だから、「10代の孤立を解決するために参加してください」という言い方をするようにしています。
藤田:「参加」ですか。それはいい言葉ですね。
今井:言葉を変えるだけで、受け取り方がだいぶ変わるんですよ。「寄付してください」より「参加してください」の方が、一緒にやっている感覚が生まれるのかもしれません。
藤田:なるほど。そういう言葉の工夫も含めて、私がやりたいのは、ビジネス界の人たちとNPO界の人たちのマッチングなんです。社会貢献したいけど、どうしていいか分からない。情報もないし、接点もない。一方で、NPO団体のみなさんは、ビジネス界の方々の協力を求めている。なのに、両者が出会う場がほとんどないんですよね。
今井:たしかに、ビジネス界とNPO界の交流会って、かなりレアですよね。
藤田:そうなんです。だから、うちで交流会をやろうと思っているんです。社会貢献コースを受けて意欲が高まった方々と、NPO団体の方々をリアルにつなぐ場をつくる。
それから、プロボノ──自分の専門スキルを活かしたボランティアも、もっとできると思っています。ウェブ制作ができる人はウェブで、広告の仕事をしている人は広告で。それぞれの専門性を活かして貢献していただける余地は、まだまだたくさんあります。
今井:それは本当にありがたいですし、これからの時代に必要な動きだと感じます。最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いできますか。
藤田:はい。経営者の方で、事業がある程度うまくいって、でもどこか満たされないと感じている方がいらっしゃったら、それは公欲にシフトするタイミングかもしれません。まずは社会の課題を知ってみてください。知ると、「何かできることはないかな」という気持ちが必ず湧いてきます。それが社会貢献の第一歩です。
今井:藤田さんが「ほっとけないな」と感じてくださったように、まずは知ることから始めていただけたら嬉しいですね。今日は、あっという間のお時間でした。ありがとうございました。
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