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若い人が続けられる環境をつくる店主が、D×Pを応援し続ける理由|「お料理 まごころ」店主 井上桂さん

認定NPO法人D×P(ディーピー、以下D×P)は、多くの方からの寄付によって活動するNPO法人です。

今回は、8年以上にわたる継続的な寄付をはじめ、さまざまな形でD×Pをご支援いただいている、大阪・中崎町の日本料理店「お料理 まごころ」店主の井上桂さん(以下、井上さん)と、D×P理事長・今井紀明の対談をお届けします。

「お料理 まごころ」は、1階にカウンターのみの鮨割烹、2階に会席の個室を構える日本料理店です。『一つの店に、二つの心地よさ』をコンセプトに、目的やお相手に合わせた料理とおもてなしを届けています。

飲食とNPO。一見するとまったく異なる二つの業界ですが、今回のお話から見えてきたのは、「若い人が続け、成長していける環境をどうつくるか」という共通の課題でした。

かつては当たり前だった働き方が通用しなくなるなかで、井上さんは若いスタッフとどう向き合い、育て方や働き方をどう見直してきたのでしょうか。

試行錯誤を重ねながらたどり着いた現在のかたちと、その根底にある若い人たちへの思いを伺いました。

なお、今回の記事の執筆には、株式会社ストーリーテラーズさんにご協力いただきました。

「全員を正社員に」。働く環境を変えるきっかけになった出来事

今井:僕たちが最初に出会ったのは、PICC(公益資本主義推進協議会)でしたね。その頃は、井上さんのお店の働き方もちょうど変え始めていた時期だったんですよね。

井上:そうですね。ちょうど従業員を全員正社員にした頃でした。それまでは正社員がひとりか二人いて、あとはアルバイトの方に入ってもらっていたんです。

アルバイトスタッフも、お願いした仕事はきちんとやってくれていました。ただ、アルバイトという働き方には、自分の時間をお金に換えるという側面もありますよね。

私はそれだけではなく、「料理をもっと学びたい」「自分の料理で何かを表現したい」そんなふうに成長をめざす人たちと、同じ目線で料理に向き合いたかった。それで、全員を正社員にしたんです。

ちょうどそんな頃、PICCの会合で「従業員の方に、やりがいという報酬を与えていますか」という話を聞きました。その言葉を聞いたとき、「自分が求めていたのは、これかもしれない」と思ったんです。

今井:なぜ、その言葉がそこまで響いたんでしょうか。

井上:飲食の仕事は、実はすごく高いスキルが必要だと思うんです。

たとえばホールの仕事でも、お客さんが何を求めているのかを見ながら、その場その場で臨機応変に対応する。それでいて、満足して帰っていただけるようにする。それって、すごい能力だと思うんですよ。

調理も接客も、経験を重ねながら身につけていくことがたくさんあります。でも、そうして力をつけても、それがそのまま待遇に反映されるとは限りません。給料がどんどん上がっていく仕事でもないんですよね。

だからこそ、給料だけではなく、働く中で「できることが増えた」と感じたり、「もっと料理を学びたい」と思えたりすることも大切なんじゃないかと考えていました。

そんな自分の思いと重なったからこそ、「やりがいという報酬」という言葉が強く残ったんだと思います。

「続けたくても、続けられない」飲食とNPOに重なる課題

今井:井上さんのお店は昔から女性のスタッフが多かったですよね。僕も10年くらい前から伺っていますが、ずっと女性スタッフが中心でした。そこには何か理由があったんですか。

井上:そうですね。「女性が料理の仕事を続けられる環境をつくりたい」そう思っていました。

いまでこそ女性の料理人も珍しくなくなりましたが、以前は個人店に就職すると、店主も先輩も男性ばかりということが多かったんです。私自身も、男性の中に女性ひとりという環境で働いてきました。

そういう環境のなかで、せっかく調理の専門学校を卒業して料理の世界に入っても、続けられずに辞めていく女性を何人も見てきたんです。

それならまず、自分のお店で女性同士がいろいろなことを学べる環境をつくろうと思いました。

そこで経験を積んで、「私はこれができます」と言えるようになれば、別のお店に行くこともできるし、独立することもできる。料理を続けながら、自分がやりたいことを見つけて、その先に進めるところまでいってほしかったんです。

今井:その話を聞くと、業界は全然違いますが、NPOもすごく似ていると思います。

僕がNPOで活動してきた中でも、「続けたくても続けられない」という問題をずっと感じてきました。ボランティアのイメージが強く、給与も決して高くない。仕事にやりがいを感じていても、生活や子育てのことを考えると、続けることが難しくなる人もいます。

また、長時間働くことが当たり前になれば続けること自体が難しくなってしまう。僕自身も、「もっと社員やスタッフが長く続けられる環境にしたい」と思い、給与を上げることや、きちんと休める期間をつくることを大切にしてきました。

飲食もNPOも、仕事そのものには面白さややりがいがある。でも、それだけで長く働けるわけではありません。

その仕事を続けたいと思う人が、無理なく働き続けられる環境をどうつくるか。業界は違っても、抱えている課題は似ているんだと思います。

「学びたい、プラス休みたい」変わる働き方と、育てる側の葛藤

今井:若い人の働き方に対する考え方も、以前とはかなり変わってきていますよね。

井上:料理を学びたいと思って、この世界に入ってくる若い人はいます。ただ、学び方や働き方は、私が修業していた頃とはずいぶん変わりました。

私自身は、長く現場にいながら、料理ができあがるまでの流れを見て経験を積んできました。最初に働いた店では、先に来て最後まで残り、調理場で行われていることを見ながら料理を覚えていったんです。

その後、ホテルで働いたときはシフト制で、時間になったら帰る働き方でした。朝に大根を切っても、それが最終的にどんな料理になるのかを見ないまま帰ることもある。そうすると、料理ができあがるまでの流れをつかみにくかったんですよね。

そういう経験をしてきたので、料理は、実際にやってみたり、最初から最後までの流れを見たりすることで身につくことも多いと思っています。

一方で、いまは料理を学びたい気持ちと同じように、きちんと休むことも大事にしています。昔のように朝から晩まで現場にいる働き方を求めることはできません。

そこで難しくなったのが、どうやって経験を積んでもらうかでした。

たとえば、魚をおろせるようになりたいなら、実際に魚を触って練習する必要があります。そのために、店側でまかないで使える材料を用意して、「ここなら練習に使っていいよ」と伝えることはできます。

でも、「休みの日に自分で魚を買って練習しなさい」と言ったり、実際に練習することを強制したりはできないんですよね。

今井:学んでもらいたい気持ちはあっても、どこまでこちらから働きかけるのかが難しいんですね。

井上:そうなんです。自分は、時間をかけて現場で経験することで料理を覚えてきた。でも、いまは同じやり方をそのまま求めることはできない。

若者と働くなかで、その違いにどう向き合えばいいのか、だんだん分からなくなってきました。それで一度、これまでの育て方をリセットしようと思ったんです。

「本人がやりたかったらいい」ひとりひとりに合わせるという選択

今井:いまは、スタッフとはどんな形で働いているんですか。

井上:いま、調理を手伝ってもらっている方がひとりいて、業務委託という形で一緒に働いています。もともとうちで働いていたスタッフで、その後ほかのお店で修業を重ねて戻ってきてくれたんです。

今回は以前と同じように社員として雇うのではなく、もっと同じ目線で一緒に仕事ができる形がいいと思い、業務委託にしました。

報酬はお店の売上に応じて変わります。仕事の仕方も時間できっちり区切るというより、そのときのお店の状況を見ながら本人が判断しています。

今井:そうやって自分で考えながら働いているんですね。その方は、この先やってみたいこともあるんですか。

井上:いずれ自分でお店をやりたいと言っています。以前イタリアンで働いていたこともあって、いまもまかないでパスタをつくっているんです。

それで、今度うちのお店でパスタのイベントをやることになりました。いまは自分から早く来て試作もしています。

そんなふうに、本人が興味を持っていることや挑戦したいことがあれば、それを試せる環境をつくる。以前のように、こちらから「これをやりなさい」と求めるのではなく、そのほうがいいと思うようになりました。

ひとりひとりめざしていることも違います。だから、全員に同じことを求めるのではなく、その人が進みたい方向に合わせて、できることを考えていく。いまは、そういう形を模索しています。

「私ができるのは、身内の中だけ」店の外をD×Pに託す理由

今井:井上さんのお話を聞いていると、お店の中で大切にしてきたことと、D×Pを応援してくださっていることが、どこかつながっているように感じます。

井上:そうですね。私も、お店では若いスタッフが学んだり、挑戦したりできる環境をつくりたいと思ってきました。

そのスタッフが何をやりたいのかを聞きながら、「じゃあ、まずここまでできるようになろう」「ここまでできたら、お客さんに出してみよう」と、次の目標を一緒に考えることもあります。

本人がやってみたいと思えることがあって、実際に挑戦できる機会があれば、少しずつできることは増えていくと思っています。できなかったことができるようになっていく、その過程を見られるのは私もうれしいんです。

ただ、私ができるのは、身内の中だけなんですよ。

うちのお店に来て一緒に働くことになったスタッフなら、彼女が何をやりたいのかを聞きながら、学んだり挑戦したりできる環境をつくることができる。でも、自分と接点のない若い人たちにまで同じように関わることはできない。

私ひとりにできることには、どうしても限界があります。

だから、自分では届かないところをD×Pに託している、という感覚に近いのかもしれません。私にできることとして、少しだけでもという気持ちを込めて寄付を続けています。

今井:そういう思いで長く支えてくださっていることを、本当にありがたく思っています。

僕たちは、LINEでの相談や食糧支援、大阪・ミナミのユースセンターなどを通じて、13歳から25歳の若者と関わっています。そうしたなかで、「何を学びたいか」「将来何をしたいか」を考える以前に、まず生活そのものを安定させる必要がある人もいます。

食べることにも困っていたり、生活が不安定だったりするなかでは、その先の進路や将来について考えることも簡単ではありません。

まず生活の土台が少し整うことで、そこから学校に行くことを考えたり、自分なりの道を探したり、少しずつ次の選択肢が見えてくることもあります。

そのための環境を、支えてくださる方々と一緒につくっていきたいと思っています。

「続ける側」も、続いていくために

今井:若い人が働き続け、成長していける環境をつくるためには、それを支える側も同じように続けていける仕組みが必要なんですよね。

井上:そうですね。いまは、お店を経営し続けること自体が簡単ではないと感じています。

最低賃金は上がり続けていますし、社会保険料の負担もあります。そのなかで、働いてくれている人にはもっと還元したい。でも、飲食業はそこまで大きく利益が出せる仕事ではないんですよね。どうやって両立させていくかは、みんなが考えていることだと思います。

それでも、飲食はすごく面白い仕事なんです。自分がした仕事に対してお客さんの反応がそのまま返ってくる。大変なことはたくさんありますが、やりがいは非常に大きいです。

今井:飲食は夢のある業界でもありますよね。

井上:そうなんです。自分で料理をして、小さくても自分のお店を持つこともできる。簡単ではないですが、そういう道もある仕事です。

だからこそ、若い人たちがやりたいことに挑戦できる環境をつくっていきたい。若い人たちが力を発揮できる社会になれば、日本はもっと良くなると思うんです。

今井:僕たちも、若者と関わる活動をこの先も続けていくために、支えてくださる方々との関係を大切にしていきたいと思っています。

D×Pは、寄付という形で関わってくださる方々に支えられながら活動しています。僕たちだけで続けられているわけではありません。

井上さんのように長く関わってくださる方をはじめ、さまざまな方と一緒に、これからも活動を続けていきたいと思います。

インタビュー・執筆:株式会社ストーリーテラーズ/編集:熊井かおり


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