"法的フレーム、社会的フレームによるセックスワークの「不安全」をなくし、労働環境を良くしていきたい"—第18回D×P公開型勉強会レポート(前編)

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2014/9/19に開催されたD×P第18回公開型勉強会のテーマは「イチから知る、セックスワーカーのお仕事」。普段はあまり知ることができない、性風俗の世界。セックスワークをどう考えたら良いのか、そこで働いている人たちにはどのような困難があるのか、法律で規制することの弊害、それらの問題の背景にあるものは何なのか…。

そんな様々な疑問を解決するべく、SWASH(スウォッシュ・Sex Work and Sexual Health )のメンバーとして様々な活動されている要友紀子(かなめ ゆきこ)さんをゲストにお迎えしました。

SWASHは、セックスワーカーを支援する団体です。性感染症の予防啓発や、調査研究、相談事業を中心に1999年から15年間活動を続けられています。実際にセックスワーカーが働く現場に介入し、当事者たちの立場にたって話を聞き、当事者たちが抱える課題の解決に向けて日々奔走されています。

今回は、前編と後編に分けて、イベントレポートをお届けします!
この前編では、要さんからの講演の様子をお届けします。
後編はD×P共同代表今井&朴との対談をお届けしています。後編はこちらから。

 


 

■日本の性産業の構成と傾向

 「日本ではホンバン行為を禁止する売春防止法(1956年制定)があるため、“ホンバンをしない性産業”非ホンバン産業が発達しました(※「ホンバン」とは、膣-ペニス性交のこと。ホンバン産業、非ホンバン産業の詳細は下記図①を参照)。しかし、売春防止法で、建前上ホンバンをすることが禁止されていても、ホンバン産業は存在します。例えばソープランドは個室付特殊浴場、ちょんの間などは接待型料理店という届け出上の名目で店舗営業しています。お店は、「客と従業員のホンバン行為を了解していないし、それは料金にも含まれていないよ」、という理屈で成立しています。それ以外の形態でのホンバン産業は、裏風俗といわれるアンダーグラウンド(または不可視化された)な領域で、働く人にとってリスクが高まります。違法なため、何かあってもまわりに助けを求めにくく、泣き寝入りせざるを得ないことが多いからです。この領域は法的に不安定な立場の外国人が働くセックスワークや援デリ(※援デリ:援助交際デリバリーの略。業者が未成年者と客を仲介し、性的サービスの提供を斡旋するもの)等も含まれてきます。

 では、「裏風俗のお店じゃなければ安全なのか?」というとそういうわけではありません。ホンバン行為が禁止されている非ホンバン産業のお店では、警察からホンバン行為を疑われないようにするために、セックスワーカーがコンドームを携帯するのを禁止していたり、コンドームを常備していないお店も多く、オーラルセックスのサービスの際にコンドームを使いたくても使えないという問題があります。

 また、風営法改正(1999年)によってデリヘル(※デリバリーヘルスの略。客のいるホテルや自宅で性的サービスを提供する風俗)が合法化されメジャー化した一方で、店舗型風俗店の新規出店ができなくなったため、ほとんどのセックスワーカーたちは、客と二人きりのホテルか客の自宅という密室で働かざるを得なくなってしまいました。近年自動ロックタイプの部屋を持つホテルが増えており、手動ロックのドアが少なくなってきています。自動ロックの場合、解錠に課金が必要で、危険な目にあってもすぐに外に出ることができません。

これは公表されていない警察庁のデータですが、1999年(デリヘル合法化)以降、2000 年~ 2011 年に、ラブホテル・モーテルで起きた凶悪犯罪件数、刑法犯罪件数の総数は26772 件、そのうち殺人・強盗・監禁・強姦等の凶悪犯罪件数は2043 件。殺人件数は76 件、強盗件数は531 件という内訳となっています。このうち、どれだけセックスワーカーの被害者がいるかについては、現場に居合わせた警察か本人または関係者やご遺族しかわかりません。セックスワーカーのほとんどは、セックスワーカーという肩書きで暮らしているわけではないので、事件として報告されるときは、被害者は学生や会社員、主婦などもうひとつの属性で報告されたり、殺人事件の場合だとご遺族がマスコミに子どもの属性を取り上げられたくないと希望することもあるからです。

これらのリスクのほとんどは、セックスワークという仕事自体が本来的に抱えるリスクではなく、社会的フレームや法的フレームによって引き起こされている「不安全」の問題です。

セックスワーカーの多くが、こうした業種別のリスクと回避方法に関する正確な情報を、働き始める前に詳しく知る術がないという問題がありますが、その問題も根っこは同じです。ときどき、『コンドームの使える店がどこか教えてください』、『どこの店が安全で働きやすいですか?』といった問い合わせがきますが、私たちがたとえ知っていても、具体的なお店を教えることは難しいのです。お店の斡旋(あっせん)に抵触する恐れがあるからです。また、届出上の名目が風俗のカテゴリーに入らないお店の求人情報では、サービス内容の詳細を書くことができないために、お店まで面接に行かないと何をするところかわからないというケースもあり、法的フレームによる、支援や情報提供の限界の問題もあります。

 以上が女性セックスワーカーの働く性産業と傾向の説明ですが、セックスワーカーは女性だけではなく、男性セックスワーカーや、トランスジェンダーセックスワーカーもいます。SWASHのWebサイトにセクシュアリティによって異なる性産業構成表を載せていますので、ぜひみてください。」

図① (以下の図は性産業構成表の一部です。全体像はこちらのPDFからご覧いただけます)

 

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要さんは、まとめとして、①法的な規制は当事者をさらに危険な環境に追いやってしまう場合も多いこと、②働く側の社会的立場の弱さや仕事環境が改善されないことによって、問題が起きていることを指摘されました。

 


 

次に、セックスワークがより安全に健康に行われるように、SWASHではどのような活動をしているのかをお話いただきました!

 

■SWASHの活動

 「SWASHは現役/元セックスワーカーとサポーターによって活動しています。調査や現場介入をするために、現場の人たちの協力を得なければならないので、店長さんたちや風俗メディア等周辺ビジネスの人々との関係構築を大事にしながら活動しています。また、当事者からの様々な種類の相談に対応するため、様々な課題に取り組む専門家やセクター、NGOの方々と問題共有や勉強会を重ねています。

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2010年までは東京が拠点でしたが、2011年~2013年までは大阪が拠点になりました。ここ2~3年の大阪での主な活動としましては、セックスワーカーと客向けの啓発資材開発、資材配布活動・現場講習・現場相談(アウトリーチ)、相談カフェ、保健師/HIV相談員向け手引書制作と頒布、風俗メディアでのコラム連載等を行いました。

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■セックスワークをどう考えたらよいか?

最後に、セックスワークをどう考えるかについてお話したいと思います。性風俗の根絶化を目指し、性風俗への参入を防ごうと考える方は、「性の商品化自体が性暴力・性差別であり、人権侵害で性搾取、危険な仕事だ」と考える方が多いと思います。

しかし私は、人権侵害があるとすれば、それは法的フレームと社会的フレームによってセックスワークという仕事の労働環境が「不安全な状態」となり、それによる被害が起きていることが問題だという考えです。セックスワークも、他の様々な労働と同様に、搾取や被害はなくす努力ができるし、労働環境の改善を図るべきです。そうしないと、いつまでたっても不安全な問題と被害を事前に防止することができないからです。

 

■セックスワークの入口と出口だけでなく、「今」も視る

 そのためには、「今現在働いている人の安全と健康が守られるために何が必要か」ということに注目しなければなりません。「なぜセックスワーカーなんかになってしまったのか」という過去(入口)や、「どうすればセックスワーカー以外の仕事に就けるか」という未来(出口)にのみ注目することは、セックスワーカーに対するスティグマ(負のイメージの烙印 )を強化し、社会的フレーム(差別や偏見)による被害の助長につながります。

ある一個人の問題や一部の傾向がクローズアップされ、それを全体的な問題として捉えるのは、一般的な他の差別の構造と同じ考え方です。そうして社会の不平等の問題の反映であることを、セックスワークの問題と捉えるというのは、間違っています。もちろん、セックスワークにこれから参入する人々に、現在の性産業が抱えている問題やリスクと防御法を伝えることは大事なことで、優先的に取り組まなければならないことです。そのことと、セックスワークへの参入を防ぐということは全く意味も影響も違います。(セックスワーク自体への参入を防ごうとする考え方は、「セックスワーク自体がなくなればいい、買春や業者を取り締まればいい」という考えになりやすく、それによりセックスワークの不可視化が進み、労働環境がさらに悪化します。)

また、セックスワーカーのセカンドキャリア支援も意義のある支援ですが、それが、セックスワーカーたちに「セックスワークという仕事自体に問題意識を持たせよう」としているのなら、セックスワーカーを、保護更生、救済の対象、社会の犠牲者とみる売春防止法の精神や従来の社会通念と同じで、「本来あってはならないセックスワーク」の考え方が根底にあると思います。セカンドキャリア支援は、納得のいく仕事に就けずに苦しんでいる、社会の不平等や矛盾を背負わされて生きている人々すべてに対して取り組まれるべきこととして考えてもらいたいです。

 

■被害や苦痛を軽減し、問題を改善する考え方とアプローチ 

 セックスワークの参入や転職を心配している人の中には、「セックスワークをやりたくない人がやらなくていいように」、「辞めたい人が辞められるように(セックスワークをやりたくてやっている人はそれでいいけど)」という思いがあるかと思いますが、このような見方のされ方もセックスワーク特有です。一般的な労働者の人々がそうであるように、今の仕事を続けたいか、続けたくないかという思いは、その時々によって変化するものだと思います。そして、セックスワークにおける被害は、施策や制度、プログラムやガイドライン等の労働環境整備によって、改善可能なものがほとんどです。

 

 簡単に言うと、届出を出している店舗型の風俗店で働けて、接客時のコンドーム使用の選択が自由にできて、家族や友人に仕事のことを話せる人は最もリスクが低いです。風俗で働いているという事実が弱みにならないので、お店や客から、「仕事のことをばらすぞ」と脅されることもない、店舗内での労働なので、何か嫌なことや心配があるとすぐに近くにいる従業員に助けを求められるからです。 

 

■セックスワーカーにとって、「悪い風俗はなくなるべき、いい職場環境の風俗は無くすべきではない」

 セックスワークそのものがリスキーで搾取だと考えられてしまう背景には、一つとして、風俗店の経営者やスカウトマンに対する偏見 があります。「経営者やスカウトマンは、金儲けのためにセックスワーカーの人々を利用している、悪い人たちだ」という見方です。だから「こういう人たちは全員取り締まったほうがいい」という結論になってしまいます。 

しかし、セックスワーカーが望むことは、「悪い風俗はなくしてほしいけど、悪くない風俗までを無くさないでほしい」ということです。悪くない風俗やいいビジネスパートナーまで取り締まると、よりよい職場の選択肢や可能性が狭まるからです。なので、私たちは、経営者やスカウトマンは「安全な労働環境のために協力と理解を求める対象」と見なしています。セックスワーカーの安全と健康の確保の意識化を図り、当事者の抱える問題・相談対応やリファー先を知ってもらうために、風俗店の店長さんや男性従業員の方々に研修させてもらっています研修の写真はこちら)。

 

 

風俗店経営者やスカウトマンと同じく、性的搾取の諸悪の根源と思われがちなのが、買春男性です。「買う需要があるから、性風俗での搾取や被害がなくならない」という考え方です。スウェーデンでは世界に先駆けて99年に買春者処罰法がつくられ、周辺国にも法制化の影響が広がっていますが、買春客を処罰すると、セックスワーカーは、客が逮捕されないように客を守りながら働かなければならなくなります。実際に、より人に見えない危険なところ(自宅や森の中など)で、サービスをせざるを得なくなったというAPNSWのCheryl Overs氏の報告があり、セックスワーカーへの負担増は想像を絶するものがあります。その他、買春者処罰法によるセクシュアルヘルスの悪化やスティグマ(負のイメージの烙印)の強化が起きています。※出典:スウェーデンのセックスワーカー支援団体Rose Allianceの2013 年調査結果

重要なのは、いかにセックスワーカーの被害や苦痛を減らせるかというハームリダクションの考え方です。

 

■セックスワーカーからの相談を待つのではなく、安全な働き方についての情報発信と、現場との密接な関係づくりを

 以上のようなセックスワークに対する考え方の違いによって、支援のアプローチの仕方も違いが出てきます。さまざまな居場所や衣食住の提供、教育支援、社会関係資本の充実などを行うことで、若者が機会を得て様々な人間と繋がり、可能性を高める活動は必要ですし、実際にそのような活動を行っている支援者は存在します。 

しかし、多くの場合、性産業の“外”に、そういった支援の場を準備するというふうになりがちです。そうすると、当事者が性産業から「抜け出る」のを待つか、説得するしかありません。それは本当に支援や相談を必要としている人には届きません。だから私たちは、お店の店長さんたちに話をしに行き、信頼してもらってから中の待機室に入れてもらい、待機室やホテルで現場講習をしたり、勤務中の待機している時間に悩んでいる人の話を聞いたりします。このように現場の方々と顔の見える関係ができれば、相談してもらいやすくなりますし、お店に気軽に伺うことができるようになります。今年も90名の店長さんや男性従業員の方たちにストーカー対策やその他相談事例への対応について、メンバーが研修をさせていただきました。

 

 

■「JKリフレ」の一斉摘発が、新たな「不安全」を生む 

 今日お話を聞いて下さったみなさんは高校の先生など10代の若者との接触が多いということで、最後に、現在注目されているJKビジネス(女子高生ビジネス)の摘発により、労働環境が悪化していったという事例をご紹介したいと思います。

2011年5月18日神奈川県警は、女子高生が下着を見せる「女子高生見学クラブ」を摘発しました。容疑は労働基準法違反でした。風営法違反、児童福祉法での摘発が難しいJKジャンルに労基法を適用するのがこれ以降常態化していきます。2013年1月27日、警視庁は都内17のJKリフレ(女子高生の衣装を着た店員によるリフレクソロジー)の店舗を一斉摘発しました(容疑は労基法違反)。その後、2013年12月、「JKリフレ」は「JKお散歩」と業態を変えて誕生しました。これまでの店舗個室内とは違い、客と店外に出るため、実態が見えなくなり、そこで働く若者の危険が増しました。今後、これら「JKお散歩」摘発を目指した条例改正の声も上がっています。それによりさらに違法運営が増え、さらに労働環境が悪化することが考えられます。

「若者はこうあってほしい」という思いや“健全な”社会環境の理想像を大人は抱きがちです。大人たちの自らの思いや理想像はひとまず横に置いて、そこに関わる若者たちの声を最も尊重し、被害や苦痛を深刻化させないための効果的な取り組みを真剣に考える大人が増えることを願うばかりです。


 

前編はこれにて終了!

後編では、NPO法人D×P共同代表との対談をお届けしています。記事はこちらから。

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