「誰もやらないことに挑む」——交差する想いが、社会を動かす|株式会社ARROWS代表取締役社長 浅谷氏とD×P今井の対談
認定NPO法人D×P(ディーピー)は、多くの方々の寄付によって活動している寄付型のNPO法人です。今回は、ご寄付をいただいている、株式会社ARROWSの代表取締役社長 浅谷治希さんと、D×P代表 今井紀明の対談企画をお届けします。
「D×Pの支援は、狂気の沙汰だと思った」――そう語る浅谷さんもまた、教育現場の見えない課題に向き合い続けてきた人物。
『株式会社』と『NPO』。組織の形態は異なりますが、「誰もやらないことをやる」という想いでつながる二人の対談から、「支援の本質」や「寄付の意味」が見えてきました。
なお、今回の記事の執筆には、株式会社ストーリーテラーズさんにご協力いただきました。

教育の分野で、信念を携えた者同士が出会った
今井:浅谷さんとお会いしたのは、教育や子ども支援に関心のある起業家が集まるスタートアップ系のイベントで登壇したときでした。あれはたしか2012年か2013年頃。ちょうどEdTechの領域が盛り上がりはじめたタイミングでしたね。
浅谷:私は当時、起業したばかりの頃。全国の先生同士がつながるSNS『SENSEI ノート』を立ち上げ、全国の先生たちに実際に会いに行って、現場の声を直接聞いて回っていました。
とはいえ資金もなかったので、出張中は知人が運営するシェアハウスに居候させてもらっていました。ある日部屋で寝ていたところ、突然、内見に来た方が入って来られて…いきなり扉を開けると知らない人が寝ているという、なんとも気まずい状況でしたね(笑)。
今井:僕もその頃は、お金が無かったですね。菓子パン一個でその日を凌ぐなんて、ざらにありました。
浅谷:当時の移動手段は、もっぱら深夜バス。先生方が集まるイベントに参加し、懇親会の後帰れなくなった日には、そのまま先生のお宅に泊めていただくこともありました。しばらくは、収益化もうまくいかず、収入もほとんどない状態が続いていましたが、ある時、「このままではいけない」と腹を括って。
本腰を入れて収益化に取り組んだ結果、ナショナルカンパニーからの導入も広がり、現在では、おかげさまで10万人以上の先生が参加するコミュニティへと成長しています。

今井:先生方を対象とした事業は、今でも少ないですよね。教育分野での事業継続は、収益性だけでなく、社会的な意義との両立が求められるので、非常に難しい分野だと思います。しかも、それを『NPO』ではなく『株式会社』として運営されている。とても難しいチャレンジだと思いますが、それでも諦めずに続けてこられた原動力は何だったのでしょうか?
浅谷:最初から「これはやる意義がある」と心から思えていたからですね。実は大学時代にも一度起業した経験があるのですが、その時は、「自分が好きなテーマだから」「面白そうだから」といった理由でスタートしていました。
ですから、いざ困難に直面した時に、心が折れてしまって。だからこそ、次に起業するときは、自分が一番辛い時でも「これはやる意義がある」と思えることでなければ続かないと思ったんです。今の事業は、その覚悟の上で始めたもので、心の底から「やる意義がある」と信じることができてきた。だからこそ、どんな苦しい時も諦めずに、ここまで続けてこられたのだと思います。

今井:立場は違えど、社会課題に本気で向き合い続けてきた仲間として、浅谷さんは本当に心強い存在です。私もすごく共感しますし、同じ志をもつ者として、これからも共に頑張っていきたいですね。
想像できるから、支援できる
浅谷:D×Pの活動をずっと見させてもらってきましたが、特に印象深いのが、コロナ禍のときの、食糧支援や現金給付支援。それを毎月数千食と実施されていた。尋常じゃない、まさに“狂気の沙汰”だと感じました。本来必要な支援を、自分たちができないかわりに、D×Pさんがこんなにも真剣に取り組んでくれている。だからこそ、「D×Pさんをなんらかの形で支援したい」という気持ちが、より一層強まりました。
今井:あの時期は本当に大変でした。でも「この支援を止めてはいけない」という一心でした。僕自身も、スタッフたちも、同じ思いで動いていましたね。
「明日食べるものがない、生理用品すら買えない。それでも、頼れる大人が周りにいない」
そんな風に困窮している若者たちを、放っておくなんてできません。何があっても支援を止めないこと。それが自分たちの役割だと思っています。そう考えると、やり方や手法は違っていても、「誰もやっていないことに挑戦する」「社会課題だけど、周囲がなかなか踏み込めない領域に本気で向き合う」という部分は、私たち共通しているのかなと思います。

浅谷:そうやってリアルな状況を聞くと、やっぱりグッとくるものがありますね。僕がD×Pさんを応援したいと思った理由も、まさにそこにあって…困窮する10代の姿を、はっきりと思い描けたからだと思います。
私は学校の現場を回る中で、厳しい状況にある子どもたちの話を、先生方に幾度となくお聞きしてきました。
たとえば、家の水道が止められていて、公園に毎日バケツで水を汲みに行っていた子。毎日同じ服を着て、垢だらけになった服を、先生が学校で洗い、乾かしてから着せて帰らせていた子。先生が福祉の一部を担っているような現実を知って、「これは遠い世界のドキュメンタリーではなく、今この目の前の現実世界で起きていることなんだ」と痛感しました。
今井:そういうリアルな接点があると、想像の解像度が一気に上がりますよね。“遠い世界の話”ではなくて、ひとりひとりの顔や暮らしが浮かんでくる。すると、自分ごととして捉えられるようになって、行動にもつながっていくんだと思います。
浅谷:はい。たぶん、自分が小学生だった頃も、同じクラスにそういう環境で暮らしていた子がいたのかもしれません。でも、当時はそうした家庭の事情が話題になることはほとんどなくて、全く気づきませんでした。僕自身も、見えていなかったし、見ようともしなかったのかもしれません。
今井:そうした現実を知らないまま、表面的な印象だけで「努力が足りないから困っているんだ」と判断してしまう大人も少なくないと感じます。きっとそもそも困窮の実態を知らない。知らないから、想像すらできないんだと思うんです。
浅谷:現実を知らないからこそ、想像が追いつかない。だからこそ、支援の先にどんな変化があったのかを、きちんと見せていくことがとても大事だと思うんです。そういった意味でも、D×Pさんには、支援を受けた子どもたちがその後どうなったのかも、ぜひ共有していただけると嬉しいですね。
取り組みの成果や、若者たちの前向きな変化が見えてくることで、「自分の支援が意味あるものだった」と実感できますし、それがまた次の支援へとつながっていくと感じています。
今井:おっしゃる通りです。僕たちとしても、サポートを届けた若者たちの“その後”を伝えていくことは大事だと思っています。最近ようやく、D×Pのサポートを卒業した若者たちの中に、「自分の経験を語ってもいいかもしれない」と話す子たちが現れはじめたんです。
自分のしんどかった過去を語ることには、もちろん勇気がいります。でも、それが誰かの希望や気づきにつながるかもしれない。そんな想いを持ってくれている子たちもでてきて…。これからは、そうしたリアルな声やストーリーを、丁寧に発信していきたいと考えています。
「もう時間がない」から始まる、次なる挑戦
浅谷:はやいもので、私たちも気づけば40代に差し掛かりますよね。最近よく考えるんです。「ガンガン動ける時間って、決して無限じゃないな」と。
日本国内の課題解決に取り組むだけでも、10年近い歳月がかかっている。それをふまえると、もし今後、海外にもフィールドを広げていくなら、今すぐにでも動き出さなければ、正直、間に合わないと思っています。
これまでの20倍くらいのスピード感で動かなければ、きっと辿り着けない。そう思うと、「ああ、もう本当に時間が足りない」と、焦るような感覚さえあります。

今井:私はもともと、国際協力の分野に興味があったので、やはりいつかは、海外に挑戦したいという想いをずっと持ち続けてきました。日本の若者支援に本気で取り組んできたこの経験を、次はグローバルな課題解決にも活かしていきたい。
たとえば、D×Pで取り組んできたAI相談の仕組みを多言語対応にして、韓国や台湾、東南アジアの国々でも展開するといったことも、可能になるかもしれません。現地の文化や課題に根ざした形で、支援モデルを構築していけたらと、本気で思っています。
浅谷:それは面白いですね!
海外の現場でも、日本と同じように「声を上げづらい子どもたち」がきっといるはずで、そういう子たちに届く仕組みをつくっていくのは、まさに今井さんたちらしいチャレンジだと思います。私もまだまだチャレンジの真っ只中。
立場や年齢が変わって、後輩たちに伝えていくフェーズにも差し掛かってきたけれど、それでもなお、野心や想いには正直でいたい。「もう十分やったよね」と言えるには、まだまだ遠い。だから僕も、挑戦者であり続けたいと、強く思っています。
今井:わかります。
必要としているのに支援が届いていない人たちが、国内にも、そして世界にもたくさんいる。だからこそ、今ある取り組みを広げていくことはもちろん、行政を巻き込みながら、新たなアプローチにも挑戦していきたいですね。そして「誰もやらないことに挑戦する」という姿勢は、これからも変わらず貫いていきたいと思っています。

浅谷:お互いにフィールドや専門性は違えど、めざしている方向や想いの根っこは、きっと同じなんだと思います。
社会のなかで見過ごされがちな声に耳を傾け、そこに光を当てていくという意味では、まだまだ私たちにできることはたくさんあるはず。
これからも変わらず挑戦を続けていきたいですね。
執筆:株式会社ストーリーテラーズ
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