認定NPO法人D×Pは2022年4月に全職員への賃上げ(ベースアップ)を行いました。

10代の孤立の問題に取り組む認定NPO法人D×P(ディーピー)では、2022年4月に全職員に対して5%以上の賃上げ(ベースアップ)を行いました。

古いデータですが、NPO職員の平均年間給与は260万円という調査結果があります(平成27年労働政策研究・研修機構「NPO法人の活動と働き方に関する調査」)これは日本人の平均年間給与461万円(国税庁webページ※2022年4月25日アクセス)よりも約200万円の差があります。

社会課題に対して取り組む職員が持続可能なかたちで働くことができるように、そして、よりよいアウトプットを出していけるようにするために、いち団体としてできるアクションをしていこうという考えのもと、D×Pではベースアップを行いました。

そして、D×Pへいただく寄付の多くは人件費に充てられています。今回の賃上げの背景や、D×Pの経営陣が考えていることを、寄付してくださっている方にあらためてお伝えしたいと思います。

賃上げに伴う背景

若年層の孤立にまつわる諸課題は、一時的に支えるだけでは解決できません。相談者や生徒ひとりひとりは、長年続いてきた保護者との軋轢や保護者からの暴力、経済的困窮、疾患、地域資源のなさなど、さまざまな要因がからみあってD×Pにたどりついています。食糧や家賃を一時的に届けることで目の前の生活の支えにはなるものの、その先の生活の安定に向けて、半年から1年、ひとによっては3年以上やりとりしている方もいます。

そういった相談者や生徒とやりとりする職員は、介護や保育、医療の現場と同様に、エッセンシャルワーカーであるとわたしたちは考えています。一方、それらの現場と同じようにバーンアウト(燃え尽き症候群)となってしまいやすかったり、日々の業務で精神的負荷を感じてしまったり…ということが起こりえます。

また、児童福祉、教育、社会保障制度、幅広い地域資源との交渉力、就職支援や多様な仕事・職業への理解など様々な知識や専門性が必要とされます。小さなNPOでキャリアを築くことによる将来的な不安もきっと人知れず抱えているだろうと思います。

相談者や生徒ひとりひとりを支えるには、スタッフを支えることも非常に重要だと、D×Pは考えています。そしてそれを、寄付していただいている皆様にもぜひ知っていただきたいと思っています。

NPO法人数は5年連続減少、人件費の充当に課題?

また、NPO法人の認証数が2018年度から5年連続減少している理由のひとつとして、NPOで働き続けることができないまま人材流出しているという実態があるのではないかと考えられます。(NPOにおける資金調達の難しさがあり創業者が増えない・継続しないなど、背景はいくつか考えられます)今もいくつかの助成金で恒常的な人件費への充当を認めないものがあるほか、寄付されている方からも、会計報告に人件費の存在があるのを知って寄付をおやめになるというケースもあります。

D×Pは小さなNPOですが、そういった姿勢で経営者が職員の賃上げを渋ってしまうと、社会全体において、社会課題に取り組む力を削いでしまうことにつながってしまい、結果、社会課題が放置されてしまうことになると考えています。

現在、日本の政府は過渡期にあります。「大きな政府」では多様なニーズに応えきれず煩雑さが増し、「小さな政府」では経済的価値のあるものが重要視され儲からないけれど重要な公的サービスが継続しづらい状態が生まれます(参考/出典:『NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方』)

この不確実性の高い社会のなかで、政府がさまざまな課題にすばやく対応することが難しくなってきている今、NPOがすばやく動いて実例をつくり、その実例をもとに公的サービスとなるよう国に働きかけていくことが求められていると感じています。いちNPOとしてスピード感と実行力を持つために、そこで働く人を大切にしていきたいと思っています。

D×Pはかねてより、所在地である「大阪府の平均給与」をめざして職員の給与を上げられるようにしてまいりました。今回の賃上げではまだその平均給与には達していませんが、引き続き、経営として努力をしてまいります。

また、スタッフ一同、業務効率化を進めながら、ひとりひとりの相談者や生徒に寄り添うことに時間をかけられるよう、日々創意工夫してまいります。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

当記事に寄せて、この1年でD×Pが取り組んだ労務改善と現状の課題を下記に公表いたします。

【2021年度に取り組んだ労務改善】

  • 就業規則の改定とルールの周知
  • アサーション研修/ライン研修の実施によるストレスマネジメント
  • ハラスメント相談窓口を社内の一次窓口だけでなく、社外のカウンセラーの方による二次窓口を設置し、より相談しやすい仕組みへ
  • 新入スタッフ特別休暇・つながり休暇の設置

【現状の労務課題と2022年度に向けた改善】

  • 2021年12月は、臨時給付を行って相談者が急増したことにより残業時間が大幅に増加してしまったことから、労働時間の適正化に向けたチーム体制の構築を行なう
  • 子育て・介護などの諸事情をもったスタッフ、および、現在はそうでないスタッフの双方が働きやすい環境をつくる
  • 労務について違和感があったときに発信できる場を増やすため、労務相談窓口を設置する
  • 多様な働き方を受け入れているために発生している業務上の負荷を改善する

D×Pに寄付してくださっている藤野英人さんよりメッセージ

「NPO・NGOが日本で普及するためには寄付文化の定着と同じくらいに担い手が安心して給与などをもらえる仕組みづくりや文化が大事だと思う。そうするとより優秀な人が挑戦をするようになるし、またそこで消費も生まれる。D×Pも日本のオピニオンリーダーとしてそのような挑戦もしてほしいと思っている。

また今後も個人としてもしっかり応援を続けたい。」

レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長/CIO(最高投資責任者)

藤野 英人

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