ご報告:生活保護受給家庭の高校生も、収入認定されずに海外渡航ができます

「え、クルーズ行けないんですか?」 

突然の定時制高校の先生からの一本の電話。

 ワールドチャレンジ募金で今年の夏の日韓クルーズに無料で行けることになった高校生のうちのひとりは、その定時制高校の生徒であり、生活保護受給家庭の子でした。その子の住む自治体※1の生活保護を担当する部署の方から、「このクルーズに行くと、収入認定を受けて生活保護費が減額される」と言われたため、行けなくなったんです、という先生からのお電話でした。 

先月、全国から参加したい高校生を募り、たくさんの応募のなか選ばれたひとりがその高校生でした。

 ワールドチャレンジ募金は、経済的困窮などの様々な事情を抱えて、自力では海外に行けない高校生を優先的に海外に送るための寄付プログラム。個人の方や企業の方からご寄付をつのり、寄付が集まると高校生が海外に行くことができます。

でも、これまでD×Pでは生活保護受給家庭の高校生を、スタディーツアーに送り出した実績を5件も知っていました。どの自治体の方も、ご納得いただけて生活保護の収入認定対象外の判定をしてくださっていました。 

生活保護を受けた世帯主の25.1%は、子ども時代にも生活保護を受給していた経験がある※2、というデータがあります。そういった親世代から子世代への連鎖をふせぐためにも、「海外で、様々な生き方をする人に出会い、視野を広げる経験」は自分のいまの状況から踏み出せる大きなきっかけになります。 

だからこそ、納税者を増やしたい行政にとっても、若者が未来に希望を持てるようになってほしい僕たちにとっても高校生のチャレンジを応援するのには意味があります。「一緒に生活保護受給の高校生を応援しましょう!」と、収入認定外の判定をしてくださっていました。 

だから、お話すればわかってくれるはず。 楽観的に思いながら、週明けにその自治体のご担当者の方に電話をしました。 

すると「①親戚の冠婚葬祭、②国際大会への出場、③修学旅行、以外の海外渡航はぜいたくと見なされ、旅費が収入認定され、その期間分の保護費も減額される」というご説明を受けて、「収入認定になります」と回答…。その時は、他の自治体の事例もお伝えし、貧困の連鎖を防止しましょうというお話をすると「検討します」とご回答いただけました。 

しかし翌日またお電話をすると「結論からすると、収入認定するので生活保護は減額します」とのご回答。 「他の自治体でも事例があるのになぜですか?」とお聞きすると、「他の自治体とは解釈が違うので」と言われました。 

「今回は応募用紙があり、選抜されて行くものですし、②の国際大会への出場にも当てはまると思うのですが、ぜひいかせてもらえないですか?」と説明しても 「貴団体は公的機関でもないので」と言われて、なかなか理解していただけませんでした。

 このままでは、あの高校生が、海外に行けなくなる。 かなり厳しい状況に置かれた子ですが、自分なりにいろいろ挑戦しようと思っているバイタリティのある子で、とてもいいタイミングでした。だからこそ、自分以外の要因で、出鼻をくじかれてしまうのは、なんとしても避けたいことでした。

さらに、そればかりではなく、これからも、この自治体の生活保護の子どもたちが海外渡航ができなくなるのは、これからの社会にとってマイナスでしかない。 ここは動かねば!と思いました。 あまり時間がなかったので少々焦りながらも、たくさんの方にご相談したりお願いをして、厚生労働省に見解を聞いてもらうことができました。 

すると、「今回のケースについては、NPO法人が広く参加者を募集し、選考されて海外渡航に無償で参加するという性質ものであることから、処分すべき被贈与資産にはあたらないため、結果として渡航費用に関して収入認定される額はないと判断いたします。」 という回答を厚生労働省から得ることができました。こちらの回答をその自治体の生活保護課にご連絡いただくことに。 するとその自治体の担当者から僕にご連絡があって「厚生労働省から連絡がきて、収入認定しないことになりました」と回答をいただけました!

 よかった!! すぐに定時制の先生に知らせ、高校生に伝わると、即座にツアー参加に必要な書類がオフィスに届きました。ほっと胸をなでおろしました。 

本当に、このときにご相談・ご連絡させていただきました皆様に感謝します。僕は直接知り合いがいなかったので、たくさんの方に助けていただきました。また、自治体の生活保護の担当の方にもお礼をお伝えしたいです。見解の相違はありましたが、丁寧にご対応いただけていたので僕は嬉しかったです。 ただ、こういった判例はないようにしていきたい、と思っています。 見知らぬところで諦めてしまう高校生を生み出したくないからです。 これまでD×Pでは何名か生活保護家庭の高校生を、こういった海外へのスタディーツアーなどに送り出していました。しかし、もしかしたら他の自治体で、収入認定になるからとワールドチャレンジ募金への応募を諦めている10代の子たちがこれまでもいたかもしれません。  

 諦めないでほしい。 選考を経て海外のスタディーツアーなどに無料参加するタイプのものであれば、生活保護受給家庭の子も参加することができます。 若者支援をしているNPOの方や教員の方も、こういった事例に出会ったら「行けるよ!」と即答してほしいですし、自治体の方と話される場合は、上記の例を参考にしていただけたら嬉しいです。 

本件に関わっていただいた皆様、本当にありがとうございました!

文責:認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長 今井 紀明 

※1:学校名・高校生の個人名はもちろんのこと、自治体の名前も伏せております。自治体の名前を伏せているのは、ご担当の方に真摯にご対応いただき最終的には収入認定しないという結論を出してくださったため、批判の対象ではないと思っているからです。批判ではなく、ともに模索し歩んで行けるように。マスメディアの皆様も、ご理解いただきますようお願い申し上げます。 ※2:参考)厚生労働省http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002kvtw-att/2r9852000002kvvd.pdf

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