発信が、社会を変える力となる|株式会社ストーリーテラーズ 髙野 美菜子さん
「NPOって、なんとなく怪しい」
そう感じる方もいらっしゃるかもしれません。背景には、NPOとの接点が少なく、実態が見えにくいこともあるのだと思います。
今回はD×P(ディーピー)代表の今井と、D×Pの情報発信を支援してくださっている株式会社ストーリーテラーズ 代表取締役の髙野 美菜子さんの対談をお届けします。
対談を通じて見えてきたのは、「社会課題解決の現場で奮闘するNPOの現実」と、「活動の理解を広げることの重要性」。
若者支援の現場で何が起きているのか。NPOへの誤解をどう解くのか。そして、どのようにして社会に「寄付や支援の輪」を広げていくのか―。
二人の対談からNPO発信の意義と可能性を探ります。
なお、今回の記事も株式会社ストーリーテラーズさんにご協力いただきました。
2010年頃、Twitter(現在のX)での出会いから始まった縁
起業インタビューが出会いのきっかけ
髙野: 私たちの出会いのきっかけはTwitterでしたね。当時の今井さんはまだ20代前半で、私も前の会社(株式会社ナチュラルリンク)を起業したての頃でした。
今井:懐かしいです!「僕も将来起業したいので、色々と話を聞かせてもらえませんか?」と僕から髙野さんに連絡を取ったのがご縁のきっかけでした。
お会いした際に「なぜ起業したのか」「なぜその分野を選んだのか」「起業してみて、何が大変か」といったことを、色々と聞かせていただいた記憶があります。当時は自分の勉強のために、様々な方々にインタビューしていた時期でした。
髙野:でも、その後は特に定期的にお会いするわけでもなかったし、頻繁に連絡を取り合っているわけでもありませんでした。「SNSを見て互いの活動は知っている」という程度でしたね。
でも、ここ2、3年でまたご一緒することになって。
今井:髙野さんと再会したのは、Facebookのメッセンジャーで、髙野さんが「ストーリーテラーズを立ち上げた」という話をお聞きしたことがきっかけでした。また、自宅が近いことも分かり、久しぶりにお会いする流れになったんですね。
髙野:リアルにお会いするのは10年以上ぶりでしたね。でも事業の話そっちのけで、子育ての話を延々していた記憶が…。
今井:確かに、お互いの子育ての悩みも含めて色々とお話しましたよね(笑)。そんなお話をしつつも、「せっかくだから、何かご一緒にできるといいですね」という話をしました。
髙野:そこで、私が企業の広報やブランディングの支援として記事発信をしていることもあり「D×Pさんの広報記事を一緒に作りましょう!」という話になりました。
軽い気持ちが使命感へと変わった

髙野:こんなことを言ってはなんですが…最初は軽い気持ちでスタートした記憶があります。
今井さんやD×Pの広報の方と打ち合わせをし、「ご支援をしてくださっている社長や幹部の方々と今井さんの対談であれば、これまでD×Pさんが発信してきた内容とも被らないし、面白そう」といった感じで。
その中で、経営者の皆さんが「D×Pさんと関わらなければ、日本の若者の現状を知ることはなかった」とおっしゃるのを耳にしたんです。
さらに「若者は国の未来を担う大切な存在。彼らを取り巻く社会課題は、大人が絶対に解決しないといけない。でも、自分たちがなかなかできない領域で、そこをD×Pさんが代わりにやって下さっている。そのことに対する『ありがとう』という意味も込めて支援しているんだ」とおっしゃっていました。
そうしたお話をお聞きしたり、D×Pさんの活動をより深く知っていくうちに、「この活動を、もっと多くの方に知らせていかなければいけない」という使命感が生まれてきた気がします。
今井:ありがとうございます。私たちも、ストーリーテラーズさんに記事を書いてもらい、発信することによって「新たなつながりが生まれ、広がっている」実感があります。対談では、相手の経営者の皆さんの原体験にも触れてもらっていますが、そういった話が、読み手の共感を生んでいるのだと思います。実際に「この記事を読んで、支援したいと思いました!」というお声も増えています。
世間が知らない現実とNPOへの誤解
私達が知らない、日本の若者を取り巻く現状

髙野:私が普段お会いするのは仕事柄、経営者の方が多いです。またある程度暮らしに余裕があるご家庭が大半なので、日本に住む子どもたちの「孤立・貧困」に関する問題には、正直全く意識が向いていませんでした。
テレビやネットで見るそうしたニュースも、恥ずかしながら「遠い世界で起きている出来事なのだろう」という感覚を持っていました。
だからこそ、「これは決して遠い世界の話ではなく、身近にある現実なのだ」ということを広く知ってもらうことが大切。
知らなければ、問題意識も生まれないですからね。
今井:確かに、先日対談させていただいた、「ビフテキのカワムラ」代表取締役の川村さんも、「知ることの大切さ」を強調されていましたよね。
経営者の集まりにいると、恵まれたご家庭の方が多く、子どもたちにとって整った環境が当たり前になっていた。「日本からヤンキーはもういなくなったんだと思っていた」と。
でも、川村さんはD×Pを知り、ご自身の幼少期や境遇と照らし合わせたことで、それが支援に繋がったというお話をされていました。
寄付型NPOの希少性とNPOに対して、世の中が抱くイメージ
今井:髙野さんはこれまでNPOと出会う機会は多くなかったかもしれません。そんな中で、NPOにどんなイメージを持っていましたか?世の中では「なんだか怪しい」という声も耳にします。
髙野:確かに、私は今井さんとお会いしているので「NPOのイメージ=D×Pさん」というクリアなイメージがあります。でも以前は、「NPOは株式会社よりもなんとなく怪しい」といった勝手なイメージを持っていた気がします。
今井:D×Pは、寄付を主な財源として活動する認定NPO法人です。認定の団体って、実は全体の2%強しかなくて、けっこう限られているんです。さらに、その中でも寄付を主な柱にしている団体は多くありません。ありがたいことに、東洋経済オンラインの特集『本当にすごいNPO』で、寄付+会費収入のランキングでもトップ25に載せていただきました。
髙野:今井さんがそのことをFacebookで呟いておられて、「おめでとう!」というコメントも多数見かけましたが、「果たしておめでとうなのか…」と複雑な気持ちになりました。
今井:そうですよね。また、その中でも国内支援の領域のNPO団体はより少なくなる。だから、ほとんどの方は全く出会う機会がないわけですよね。それなのに、「NPO法人が会計不正しました」というようなニュースが流れたりするわけですから「そりゃ、NPOへの印象は悪くなって当然だな」とは思います。
NPO法人の信頼性向上への取り組み

今井:僕は「NPO法人の中抜き批判」について言いたいことがあって。
というのが、寄付していただいたお金を使い、物理的な支援だけを行なっても、本来の課題が改善されるわけではありません。
D×Pも、食糧支援や現金給付を行なっていますが、それだけでは、若者の複合的な課題は解決できません。大阪ミナミに若者が気軽に立ち寄れるユースセンターをつくったり、相談員を置いたり、持続的な仕組みをつくったりしていくためには、人件費は絶対に必要なんです。
だから中抜き批判に対して、「それは中抜きではなく、人件費が必要だからなのだ」と、胸を張って伝えることが重要だと思っています。
職員には、大阪府の平均給与の水準に合わせた人件費を出していますし、寄付者さんに人件費が必要であることをお伝えするようにしていますね。
髙野:「D×Pさんは財務面がしっかりされていて、かつその財務情報をクリアに見せていただけるから信頼できる」と、以前の対談で経営者の方がおっしゃっていました。自分たちの寄付が、何にどのように使われ、どのような結果に繋がっているかが分かれば、NPOへの信頼性と納得感に繋がっていきますね。
今井:ありがとうございます。この点については、NPO法人の信頼度を上げるために、今後もより力を入れていきたいと思っています。特にNPOは「利益を上げてはいけない団体だ」と思っている方もいらっしゃいますが、次年度以降に活動を継続していくためには、財源は絶対に必要です。
そのために僕たちは「次年度資金確保率」という言葉を使い、次年度の資金確保率を最低でも10%は取ると明示しています。
だからこそ、大阪ミナミのユースセンターでの支援が継続できたり、緊急支援ができたりするわけですから。
目に見えない空気を、文化を、変えていく
国を巻き込むための戦略

髙野:今井さんは行政にも積極的に働きかけをされていますが、行政や国を巻き込むというのは、具体的にはどのように進めていくものなのでしょうか?
今井:これについては色々な方法がありますね。例えば「D×Pの大阪ミナミのユースセンターの仕組み」で言うと、これは全国の自治体や繁華街に広げていける可能性が大いにある取り組みなんです。
国と自治体の関係については「国が全ての予算を出す」場合もありますが、国と自治体が半分ずつ予算を出すということも多くあります。
ですから、若者支援に課題を感じておられる自治体向けに説明会を行なって、「僕達のようなNPOが既に取り組んでいて、仕組みも実績もある。自治体も、予算を使ってユースセンターのような取り組みができますよ」ということを知ってもらう機会をつくっています。
草の根的ではありますが、こうやって徐々に広げていくのも大切な方法だと思います。
髙野:なるほど。以前から「本来は国や行政が行うべき支援を、NPOがやりすぎてしまうと、国がその課題に取り組まなくなってしまうのは問題だ」とおっしゃっていましたもんね。
今井:はい。本当にそうなんです。民間の力だけでやりすぎた結果、「若者支援は民間でやれる」という流れになってしまうのはよくない。ですから、なるべく国が対応する流れをつくるためにも「NPOの活動を継続しつつ、国や行政に対してしっかりと声をあげていく」という両輪が必要だという意識を持ってやっています。
アーティストやスポーツ選手との連携も視野に
今井:実は将来的には、スポーツ選手やアーティストの方ともっと連携していきたいと考えています。
例えば、鹿児島ユナイテッドFCの稲葉修土選手がD×Pを応援してくださっていたり、公表はされていませんが、DMをくださって個別に支援してくださっているケースも結構あるんです。
そういったスポーツ選手やアーティストの皆さんとも連携して、皆さんのご経験を含めて発信することで、支援の輪をより広げていけるといいなと思っているんです。
髙野:なるほど。そうしたみなさんも、ご自身の原体験と重なり共感されて、「次世代の若者を支援したい」という気持ちで行動されているケースも多いかもしれないですね。
今井:そうですね。普段はご自身の原体験まで深くお伺いする機会はなかなかありませんが…きっと色んな思いがおありなのだと思います。
髙野:皆さんの力をお借りしながら輪を広げていくことで、日本の寄付に対するイメージや空気感が少しずつ変わっていくと良いですね。
今井: はい。日本にはまだまだ寄付文化が根付いていませんが、最近は、「初めて寄付しました」と言ってくださる方も多くなってきた実感があります。そういった意味では、「ストーリー」の力には世の中を変えていく可能性があると思っているので、これからもストーリーテラーズさんと一緒に発信をしていけると嬉しいです!
髙野:はい! 寄付文化や社会全体で支える仕組みづくりの第一歩は、「知ること」であり「知らせること」から始まる。引き続き二人三脚での発信、どうぞよろしくお願い致します!
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