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手触り感と透明性が生みだす、企業とNPOの新しい協働モデル|スパイスファクトリー株式会社 取締役CSO 流郷綾乃さん

今回は、2023年からD×Pに寄付やご支援を頂いている、スパイスファクトリー株式会社(以下、スパイスファクトリーさん)取締役CSO 流郷綾乃さんと、D×P代表 今井紀明の対談企画をお届けします。

なぜスパイスファクトリーさんが「若者の孤立」という社会課題に関心を寄せ、ご一緒してくださっているのか、その背景や熱い想いについてお話をお聞きしました。

また、今回の記事の執筆も、株式会社ストーリーテラーズさんにご協力いただきました。

CSRのあり方として大切にしている「手触り感」と「透明性」

今井:はじめに少しだけ、D×Pの活動をご紹介させて下さい。当団体は14期目の認定NPO法人で、困難を抱える若者に向けてオンライン相談や食糧支援を行なっています。例えば約1万7000人の若者が登録するLINE相談「ユキサキチャット」では日々、進路や進学生活相談を受けています。保護者に頼れず困窮する15歳〜25歳には、食糧支援を実施しています。大阪では、居場所を求める若者が集まる「グリ下(道頓堀のグリコ看板下)」の近くで若者の支援拠点「ユースセンター」も運営しています。

流郷:改めてお話をお聞きして、行政の支援が行き届かない領域で、貴重な活動をされていることを実感いたしました。今井さんとの出会いは、コロナ禍の真っ只なか。今から3〜4年前のことです。もともとX(旧Twitter)でお互いをフォローしていて、「ちょうど関西出張があるので、よろしければお会いしませんか?」と、私のほうからDMをお送りしたのがきっかけでした。

今井さんは、ずっと前から一度お会いしてみたいと思っていた方なんです。活動内容はもちろんですが、SNSで発信される言葉の端々に人柄がにじみ出ていて、「素敵な方だなぁ」と感じていました。

今井:ありがとうございます。私も、流郷さんのことは前職でベンチャー企業の代表をされていた頃から存じ上げていました。アロマセラピストやバイオテックの会社でのCEOを経て、スパイスファクトリーさんへ…。良い意味でとても異色で、面白い経歴の方だなと思っていました。

流郷:そんな風におっしゃっていただけて嬉しいです(笑)実は、今井さんにお会いしたいと思った理由は、もうひとつあります。当社CEOの高木ともよく話していることなのですが、私たちは社会課題に取り組むうえで「手触り感」や「透明性」をとても大切にしてきました。

仮にご支援を検討するにしても、「実際にその現場に触れて、肌で感じたうえで、一緒に歩みたいと思えるかどうか」——それが私たちにとって、とても大切な視点なんです。だからこそ、まずは今井さんに直接お会いしたいと強く思っていました。

今井:流郷さんのおっしゃる「手触り感」や「透明性」とは、具体的にはどういうことでしょうか?

流郷:それでいうと、もちろん「実際にお会いして共感できる」ということも大切なのですが、D×Pさんの場合は、それに加えて年次報告書のレポートが本当に素晴らしかったんです。一円単位まで細かく丁寧に報告してくださっていて、その誠実さがまさに“手触り感”につながっていると感じました。

当社の皆が頑張って売上と利益を出してくれたなかから、「これは誇れる取り組みだ」と感じたものにCSR(社会貢献活動)(※)の予算を捻出しています。だからこそ、社員に誇りをもってもらえるような活動でなければいけないと思っているんです。

だからこそ、手触り感や透明性は、私たちにとって本当に大切にしているポイントなんです。

(※)CSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)
企業が事業活動を通じて、地域社会への貢献や環境保護、労働者の人権尊重など、社会全体に対して責任ある行動をとることを指します。

今井:なるほど…よくわかります。やっぱり「NPOってちょっと怪しいんじゃない?」という見方って、まだまだありますよね。一般の方にとって、NPOはすごく遠い存在だと思います。だからこそ、NPO側がいかに財務やお金の使い方を“見える化”していくかが、とても大切だと思っています。

そこで年次報告書では、会計報告も解説付きで出しています。何が増減しているのか、何にお金を使っているのかといった点をきちんと説明するようにしていて、人件費も含めてしっかり開示するようにしています。

この年次報告書のスタイルを、他のNPO団体さんも参考にしてくださるようになってきて。こうした取り組みが広がっていくのは、とても嬉しいことだなと思います。

流郷:これまで「もう少し丁寧に書いてもらえると良いな」と思ってしまうような年次レポートもたくさん見てきました。でも、D×Pさんのレポートはそうではなくて、ちゃんと相手に伝わるように、丁寧にコミュニケーションが取られている。レポートからも、その姿勢が伝わってくるというか…。そこが、他の団体さんと大きく違うなと、いつも感じています。

「会社の取り組み」から「社員の行動」へ 寄付が広がる瞬間

流郷:今井さんには、当社の周年イベントのときにビデオメッセージをいただいたり、講演していただいたり…。そうした関わりも本当にありがたく思っています。実は今井さんにビデオメッセージでお話しいただいた後、「個人での月額寄付をやってみようと思いました」と社員から声をかけてもらったんです。

今井:そうしたお声を、実は私も何人かの方から直接いただいていて、驚きました。とても嬉しかったです。本当にありがとうございます。

流郷:自分たちが社会貢献の活動として取り組んでいることを、当事者である今井さんから“生の言葉”で伝えてもらえたことで、それを聞いた社員が自ら行動に移してくれた。これって、会社としてCSRに取り組んでいて本当にやってよかったなと思える瞬間なんです。「ああ、自分たちが信じて取り組んでいることに、社員もちゃんと共感してくれているんだな」と実感できるというか…。

今井:そうした社員の方々の声を聞かせていただけたのは、励みになります。そして企業という存在が持つ、つながりや広がりの力が、改めてすごいなと感じました。僕たちが関わりたくてもなかなかリーチできない方々に対して、法人を通じて課題を知っていただくことで、共に行動してくださる方が増えていく。

社員の皆さんのおかげで、実際に支援している子どもたちが学生生活を続けられたり、その後の就職につながったりしています。数人、あるいは数十人の社員の方々が応援してくださる——そんな流れが少しずつ生まれていくのを感じていて、法人の力の大きさを実感しています。

流郷:こちらこそありがとうございます。当社では、D×Pさんの冊子をいつも何部か送っていただいていて、それをオフィスに置いて、来社される採用面接の方やクライアントの皆さんに「私たちはこういう活動を支援しています」とご紹介しています。

実はそれが、すごく良いアイスブレイクになっていて。

デスクや会議室で、この冊子をきっかけに自然と会話が生まれるんです。もちろん「なぜこの取り組みをしているのか」も説明させていただきますが、そこで共感してくれる方とお仕事をご一緒できるって、本当に素晴らしいことだなと思うんです。

今井:それはすごい! 冊子を通じて「会社として何を大切にしているか」「社会課題にどう向き合っているか」を伝えられる。まさに、会社としてこの活動に取り組んでいる意義が、コミュニケーションツールとして機能しているわけですよね。

そこまで活用していただいている企業様は、正直なところD×Pの法人寄付をいただいているなかでもごく一部です。だからこそ、本当にありがたいなと感じています。

子育て経験で高められた視座、社会との向き合い方

今井:流郷さんや高木さん(スパイスファクトリー 代表取締役CEO)と話していて感じるのは、お二人とも“長期的な社会”を見据えて行動されているということです。

子どもや若者支援に携わってくださっているのも、そうした思いがあるからなのかなと。

流郷:おっしゃる通り、将来世代のことは本当に大切にしています。「今」というのは過去の延長線上にある。私には子どもが2人いるのですが、彼らが将来おじいちゃんやおばあちゃんになったときに「お母さんがやってたこと、最低!」なんて思われたら、もう生きていけない⋯(笑)。

逆に「あのときお母さんがやってたこと、大切な意味のあることだったんだな」と思ってもらえるかどうかは、私が生きていく上でとても大事な軸なんです。

スパイスファクトリーの社内では、こうした自分の価値観を共有し、お互いに共感した上で仕事ができているので本当にありがたいですね。

今井:僕も、子どもが生まれてから、地域や社会との関わり方が大きく変わりました。子どもたち世代に対して、自分がどんな責任を果たせるかを、より強く意識するようになったと思います。

また改めて感じるのは、私たちNPOの役割は、まだ解決の糸口すら見えていない課題に向き合い、少しずつでもその解決に近づけていくことだということです。

D×Pで言えば、たとえばオンラインの福祉相談がなかったから、「ユキサキチャット」というLINE相談を始めたり、繁華街での若者支援も、大阪では取り組んでいる人がほとんどいなかったので、私たちがやることにしたり…。

そういう「まだ世のなかにない支援」をつくっていくのは、ある意味でスタートアップ的なNPOだからこそできることだと思っています。 寄付でご支援いただいているからこそ、制度の外側にある課題にも、柔軟にチャレンジできている——本当にありがたいです。

流郷:こちらこそ、私たちが手の届かない領域で、代わりに働きかけてくださっていて、本当にありがたく思っています。

今井:世のなかには、課題として認識されているにも関わらず、あまり語られず、支援の手も届いていない領域が少なくありません。

私自身、今はステップファーザーとして、子どもを育てています。でもステップファーザーに関する情報は少なくて…。周りに相談できなかったり、孤立感を抱えている方も多いのではないかと思います。

そのなかで、自分の経験をnoteに書いてみたところ、30万回以上も読まれていて…。「うちもステップファーザーです!」「ぜひお話したいです!」といったメッセージをたくさんいただきました。

一見すると見えにくいけれど、確かに存在している課題に、しっかり目を向けて。今の事業を起点にしながら、少しずつでも、いろんな社会課題を解決していけたらいいなと思っています。

海外展開:フィリピンでの奨学金制度

今井:御社では、奨学金の支援もされていると伺いました。とても大切な取り組みだと思います。

流郷:はい、当社ではフィリピンにある現地法人で奨学金制度を行なっています。対象は貧困エリアの高校生で、Facebookで募集をかけて、そこから約7回の選考や面談を経て、最終的にひとりを選びます。現地法人で社員を5人採用するごとに、その地域の学生ひとりに対して、大学4年間分の学費と生活費を支援する仕組みです。2025年6月末時点では5名を支援しています。

ただ、支援金を親御さんに渡してしまうと、必ずしも本人のために使われないケースもあるんですよね。なので私たちは、必ず本人に直接渡すというルールにしています。

今井:すごく共感します。D×Pも同じ理由で子ども本人への直接支援を大切にしています。

流郷:この支援を初めてから、もうひとつよい変化がありました。現地法人のエンゲージメントが一気に高まったんです。離職率も下がって、定着して長く働いてくれるようになって。

採用は企業にとって大きなコストがかかるところなので、社会貢献活動がそれを下支えしてくれるという手応えを感じています。「社会貢献は経営にどう生きるか?」という実証実験も兼ねて始めたんですが、期待以上の成果が出ていますね。

今井:素晴らしいですね!可能性を感じますし、ご一緒に考えていけることは、まだまだたくさんありそうです。

流郷:はい、ぜひ!

こうした取り組みをする企業が、もっと増えてほしいなと思っています。1社だけでやるには、どうしても限界がある。だからこそ、仕組みを共有して、支援の輪を広げていきたい。より多くの企業や人が関わって、継続的に社会を支えていける。そんな未来を一緒につくっていきたいですね。

“思い”を循環させる法人の力

今井:社員の方々が自発的に動いてくださったというお話を伺って、本当にありがたく思っています。

そして改めて、企業の皆さんが社会に与える影響力の大きさを感じました。私たちNPOがリーチできない方々にも、企業の皆さんのつながりを通じて課題が届き、共に考え、行動してくださる人が増えていく。これはとても心強いことです。

流郷:“自然と”NPOがあって、株式会社があって、それぞれが役割を果たしながら社会システムを支えていく——そういう関係性があってこそ、社会がしなやかに回っていくのだと思います。

社会課題のなかには、企業としてはどうしても踏み込みにくい領域もある。でも、だからこそ、そうした領域にお金を循環させることには、大きな意義があります。

今井:実際に、継続的に関わっていただけることで、私たちも持続的な活動を展開できます。たとえば、食糧支援のように“毎月確実に届けられる”ことが、若者たちにとっても僕たちにとってもとても大きな支えになります。

流郷:正直なところ、法人寄付に関しては「やらない理由がない」と思っているくらいです。さらに言えば、ただ寄付して終わりではなくて、そこに自分たちの思いや信念がしっかり乗っているのであれば、社内外からものすごい共感が得られますよね。

それは企業のブランディングにもつながりますし、結果として良い循環を生み出す取り組みになると確信しています。

今井:これからも、企業とNPOがそれぞれの強みを活かして社会に関わっていくことで、より良い仕組みを一緒につくっていけたら嬉しいです。その積み重ねが、未来を変える力になると信じています。


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